2017 Fiscal Year Research-status Report
中世スペイン・下アラゴンにおける城塞集落と流通ネットワーク
Project/Area Number |
17K03176
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
足立 孝 広島大学, 文学研究科, 准教授 (90377763)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 中世ヨーロッパ / 領主制 / 征服・入植運動 / アラゴン / 封建制 / 空間編成 / 城塞集落 / 流通 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、征服・入植運動の起点をなす12世紀後半から一般にヨーロッパ全体が収縮局面に入るとされる14世紀中葉までを時間的枠組みとし、エブロ川以南の下アラゴン東部(現テルエル県)、ことに同地域できわめて高い比重を占めたテンプル騎士団領(1317年より聖ヨハネ騎士団領)を主たる対象に、これまで政治空間の分節化という観点から封建社会の基礎細胞とみなされてきた城主支配圏とそれを地誌的に実体化する城塞集落の形成という現象を、地域内外の財貨の交換ネットワークの形成という観点から具体的かつ実証的に検討しようとするものである。本年度は、当該研究課題の初年度ということで次のような作業を行った。 (1)下アラゴンは伝統的に、移動放牧と略奪遠征をもっぱらとする「辺境都市」モデルの雛形となった、「商業都市」、ひいては市場不在の空間とみなされてきたが、テンプル騎士団領ビジェルにおける集住村落の形成過程を、政治空間の分節化という観点からだけでなく、財貨の交換ネットワークの組織的創出・空間的布置という観点から再検討する作業を行った。 (2)テンプル騎士団領ビジェルを検討するにあたり、当該バイリアに伝来するカルチュレールと、アラゴン全域で最も早期の交渉人登記簿の史料論的分析を行った。 (3)テンプル騎士団領との比較という観点から、同地域のサラゴーサ司教領に伝来する公証人登記簿を渉猟・分析するべくテルエル県立歴史文書館(スペイン・テルエル)において約3週間の史料調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、作業の円滑化・効率化を図るべく、下アラゴン東部に展開したテンプル騎士団領の四大バイリアないしエンコミエンダ(アルファンブラ、カステリョーテ、カンタビエハ、ビジェル)をそれぞれ各年度にとりあげて、最終年度にその成果を総合しようとするものである。本年度は、そのうちビジェルをとりあげて、およそ未刊行のままの史料を網羅的に閲覧・分析し、定住・空間編成と市場論との接合を図りつつ、その全体像が把握されるにいたった。それに加えて、約3週間の現地調査を通じて、近隣のサラゴーサ司教領に例外的に伝来する公証人登記簿の閲覧・分析を遂行することにより、両者の比較に及びえており、以上の所見を書物というかたちで公開する準備が進められているからである。
|
Strategy for Future Research Activity |
下アラゴン東部に展開したテンプル騎士団領の四大バイリアのうち、初年度にとりあげたビジェル以外のアルファンブラ、カステリョーテ、カンタビエハが各年度にそれぞれ俎上に載せられる。単葉文書・カルチュレール・公証人登記簿を基本的な史料として、それらに考古学的・歴史地理学的知見を交差させつつ遂行される方法論そのものは初年度の作業と同様に有効であるものと考えられるので、個々のバイリアの独自性をも考慮に入れつつ、おおよそ共通の作業が展開される。なお、当該地域の史料、わけても公証人登記簿は総じて未刊行のままであり、各年度に各集落の文書庫での史料調査が遂行されなくてはならない。
|
Research Products
(2 results)