2021 Fiscal Year Research-status Report
中世スペイン・下アラゴンにおける城塞集落と流通ネットワーク
Project/Area Number |
17K03176
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
足立 孝 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 准教授 (90377763)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中世ヨーロッパ / 封建制 / 征服=入植運動 / 商業 / 城塞集落 / 定住史 / 空間編成 / 村落共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、征服=入植運動の起点をなす12世紀後半から14世紀後半までを時間的枠組みとし、アラゴン南部(現スペイン・テルエル県)、ことに同地域できわめて高い比重を占めたテンプル騎士団領(1317年より聖ヨハネ騎士団アンポスタ管区に統合)を中心に、封建社会の基礎細胞とみなされて久しい城主支配圏とそれを地誌的に実体化する城塞集落の形成という現象を、地域内外の財貨の交換ネットワークの形成という観点から具体的かつ実証的に再検討するものである。本年度は、次のような作業を行なった。 (1)テンプル騎士団領が展開するマエストラスゴに隣接する、アラゴン王国最南端の集落プエルトミンガルボ(サラゴーサ大司教領)と、バレンシア王国北端の集落ビリャエルモーサ(アレノス領主領)という、互いに隣接しながらも帰属する王国も領主も異にする二つの集落のあいだでヒト・モノ・カネが双方向的に行き交うさまを、新出史料であるビリャエルモーサ公証人登記簿の記述と、プエルトミンガルボ公証人登記簿のそれとを突き合わせることによって具体的に明らかにした。 (2)ビリャエルモーサを中核集落とするアレノス領主領をめぐり、バレンシア王国文書館所蔵の2点の世帯申告記録をテクスト生成論的に分析し、同領主領が1360・1370年代をつうじて、議会補助税であれ領主援助金であれ、いずれも世帯数によって配分される非慣習的な「供与」の供出をよぎなくされたことを実証した。 (3)アラゴン連合王国文書館所蔵のバレンシア王国バイレ・ヘネラル会計記録に列挙された禁輸品の海路持ち出し目録と、14世紀後半に導入された、王国生産物の域外持ち出しに課税される議会代表部税の分析をつうじて、ローカルな流通回路がいかにして、税収増強をもっぱらとする保護主義、さらには王国規模の保護主義的な経済政策に取り込まれてゆくか、その起点を見出すべく綿密に検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、作業の円滑化・効率化を図るべく、アラゴン南部に展開したテンプル騎士団領(聖ヨハネ騎士団領アンポスタ管区)の四大エンコミエンダを各年度に順次取り上げて、最終年度に相当する本年度にそれぞれの研究成果を総合しようとするものであった。だが、テンプル騎士団領そのものは13世紀前半の征服=入植運動をつうじて隣接するバレンシア北部(現カステリョ県マエストラット)にも広く展開したし(1319年に新たにサンタ・マリア・ダ・モンテーザ騎士団として統合)、地域内外の財貨の交換ネットワークを史料にそくして復元するという本来の趣旨からすれば、アラゴン王国かバレンシア王国かという政治的かつ法的な境界を越えて、アラゴン南部とバレンシア北部とを社会経済的に一体化した一つの空間とみなした作業が求められる。こうしたなかで、アラゴン南部マエストラスゴおよびグダル=ハバランブレと、これまでほぼ注目されることのなかったバレンシア北部アルト・ミリャルスとの双方向的な流通回路の一端を、新出史料を用いて明らかにすることができたことは、当初の予定を大きく上回る成果ということができる。だが、新型コロナ・ウイルスの蔓延による渡航制限に見舞われて、昨年度に引き続き未刊行史料の現地蒐集を行うことができなかったため、アラゴン南部マエストラスゴからバレンシア北部マエストラットにぬけるルート、パランシア川を介して地中海沿岸部のムルベドラ(現サグント)にいたる当時の主要幹線ルート、トゥリア川を経由してバレンシア市へと貫通するルートを網羅したうえで本研究を総合するには、バレンシア王国文書館ならびにテルエル県立歴史文書館に所蔵される未刊行史料の蒐集と分析が必須である。それゆえ、この方面で作業に大幅な遅れをきたしていることは否めず、1年間の補助期間延長を申請するほかなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
アラゴン南部に展開したテンプル騎士団領(聖ヨハネ騎士団アンポスタ管区)の四大バイリアを各年度に順次取り上げ、単葉文書、カルチュレール、公証人登記簿、会計記録を基本的な材料として、それらに考古学的・歴史地理学的知見を交叉させつつ遂行するのが本研究の基本的な作業である。本年度は本来ならば最終年度にあたり、それら一連の成果を総合しなくてはならなかった。もっとも、騎士団領はバレンシア北部にも広く展開するうえに、征服=入植運動と城塞集落の形成過程を地域内外の財貨の交換ネットワークの形成という観点から捉え直すには、王国の政治的な境界を越えてアラゴン南部とバレンシア北部とを一つの経済圏とみなして、そのなかで一連の成果を総合すると同時に位置づけなくてはならない。だが、新型コロナ・ウイルス蔓延による渡航制限にみまわれて、昨年度に引き続き現地渡航が許されず、とくにバレンシア北部にかかわる未刊行史料に蒐集かつ分析すべき史料が多数残されているのが現状であり、1年間の補助期間延長を申請したうえで、次年度の早い段階で現地に渡航し、バレンシア王国文書館およびテルエル県立文書館に所蔵される史料を蒐集かつ分析する一方、その成果を併せて本研究全体の総合を図る予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウイルス蔓延による渡航制限により、本研究の遂行上必須で、使用額の大半を占める予定となっていたスペイン現地史料調査を、2年間にわたって遂行することが許されなかったからである。渡航制限にみまわれた昨年度の研究費全体を本年度にあえて持ち越し、渡航制限解除と同時に、バレンシア王国文書館、テルエル県立歴史文書館、アラゴン連合王国文書館で現地史料調査を敢行し、研究全体の総合を図る予定であったが、残念ながらそれもかなわず、その結果、1年間の研究期間延長を申請するほかなかった。次年度こそは時勢を考慮しつつ現地史料調査を敢行し、その成果を盛り込んでぜひとも研究全体の総合を目指したい。
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Research Products
(3 results)