2018 Fiscal Year Research-status Report
ハルビンのロシア革命:ロシア革命と東北アジアの在外ロシア世界
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17K03182
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
中嶋 毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (70241495)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 在外ロシア / ロシア革命 / ハルビン / ソ連 / 白系ロシア人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝政ロシアの東アジア進出拠点として形成され発展した都市ハルビンにおいて、1917年のロシア革命がどのように展開したのか、そしてその挫折により形成された在外ロシア世界がソヴィエト体制といかなる関係を構築したのか、という問題を同時代の史料に基づいて実証的に分析することを課題とした。本年度は、1917年のハルビンにおいて発生した革命情勢の歴史的背景を解明することを主要な課題とした。 この課題の遂行を通じて、以下のような諸点を明らかにすることができた。(1)中東鉄道の建設に従事したロシア人技術者のあいだでは、彼らが受けた西欧近代の科学技術の背景にあった自由主義的気分が広く共有されていたが、政治的な組織活動は必ずしも見られなかった。この状況が大きく変化するのは、ロシア本国で1905年に起こった革命的政治変動の波及後のことであった。(2)1905年革命ののち、ハルビンを中心とする中東鉄道沿線でも新たに市制が導入されるようになり、政治的自由の空間が拡大した。ロシア本国と同様に、ハルビンでも政治的・経済的利害に基づいて、中東鉄道と利害関係を共にする鉄道従業員、知識人や専門家を基礎とする「進歩主義」的グループ、主に経済活動に従事した地主・家主集団、といった社会集団の形成が進行した。こうした政治的・経済的分化を背景に、それぞれの集団の利害を表出する政治組織の形成も進行していった。(3)ロシア本国が参戦した第一次世界大戦は、戦場から遠く離れた中東鉄道沿線にも大きな影響を及ぼした。ヨーロッパが戦場と化したことによりハルビンはロシアの輸入基地となって経済的に活性化したものの、ロシア本国の経済状況の悪化に伴って次第にルーブル通貨の下落と物価上昇に苦しむことになった。このことは、1917年にロシア本国で起きた革命が中東鉄道沿線に波及するうえでの前提条件となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題のうち、1917年のハルビン革命が起こった歴史的背景について解明する作業を進めることができたものの、年度後半に健康を損ねたため研究成果を論文として発表する段階までは至らず、第一次世界大戦が東アジアに及ぼした影響とロシアとのかかわりを考察した小文を公表するにとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえて、帝政末期から1917年の革命に至るまでのハルビンの政治的・社会的状況についてさらに考察を深め、論文にまとめる作業を進める。この作業とあわせて、ハルビン革命後の混乱からハルビンにソ連勢力が進出進出して在外ロシア世界が変容する時期の歴史的展開にかかわる同時代史料を収集し分析する作業を実施する。
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Causes of Carryover |
アメリカ合衆国への出張を実施の予定であったが、年度後半に健康を損ねたため出張を断念せざるを得ず、次年度使用額が生じることとなった。 当該費用は、次年度に実施予定の外国出張期間を延長するための費用に充当する。
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