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2018 Fiscal Year Research-status Report

資本論から贈与論へ―利子の解像力に関する学際的研究―

Research Project

Project/Area Number 17K03185
Research InstitutionOsaka Prefecture University

Principal Investigator

佐々木 博光  大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 准教授 (80222008)

Project Period (FY) 2017-04-01 – 2020-03-31
Keywords利子 / 公債 / 5%条項 / 営利 / 慈善 / 宗教改革 / 非常高利 / 買い戻し
Outline of Annual Research Achievements

利息には主として二種類があった。ひとつは営利目的の利息で、いまひとつは慈善目的の利息であった。後者は財団Stiftungによる救貧や助成金Stipendiumという形で実施された。中世のカトリック教会は利子取得を固く禁じた。禁止が緩和され、利子取得が容認される過程を追跡している。
神聖ローマ帝国では16世紀に三度の帝国警察令(1530、1545、1577年)によって、条件付きではあるが年利5%までの利子取得が法律上認められることになる。しかしそれ以前から法律家や宗教者は年利5%を上限とする利子取得の是非を問題としていた。おそらく中世後期の都市条例ですでに5%条項が広がりつつあったのであろう。しかしそれに対する法律家と宗教者の態度は異なった。法律家は年利5%を上限として二種類の利息を区別せず無条件に認める傾向があった。いっぽう宗教改革者やその後のプロテスタント神学者たちは、慈善目的の利息は年利5%を上限として歓迎する態度をとったが、営利目的の利息にはかたくなに難色を示した。
宗教者の姿勢に変化が現れるのは17世紀の30年戦争期である。非常高利Notwucherの是認という形で営利の利息も5%を上限として認めるという考えが現れる。貸し倒れにならず資金がちゃんと債権者の手にもどればもっと多くの人が救われるという発想である。中世の利息禁令ではキリスト教的な観点から貪欲な債権者に対する債務者の保護が問題になったが、いまや狡猾な債務者に対する債権者の保護という問題も浮上した。それは公共の福利という観点から正当化された。それにともない法律家の利息擁護論にも変化が現れる。彼らの議論も慈善目的の利息を認め、そのためにやむを得ない営利目的の利息を年利5%まで認めるという形を取り始める。すくなくとも当時の擁護論の上では、慈善目的の利息の容認が営利目的の利息の容認に先行したことを確認しつつある。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

中世の利子禁令が緩和され、近世になって利子が容認される過程を考察するために、ドイツのヘルツォーク・アウグスト図書館、スイスのバーゼル大学図書館で史料調査を行った。当初予想した以上に史料に恵まれ、30年戦争期に宗教者の利息擁護論に変化が現れるという新知見がすでに得られている。そしてそのことは法律家の利息擁護論にも新たな方向性を与えることになった。この点については今後さらに史料調査を続け、議論を固める必要がある。
斬新な結論に到達しつつあるが、研究は概ね当初予想した通り、慈善目的の利息の容認が営利目的の利息の容認を誘発するという利息擁護論の変化を確認する方向で進捗している。しかしこれまで行った史料調査で予期しなかった史料群にも出くわしている。地代の買い戻し、公債の買い戻しの当否をめぐる議論である。ある人が土地経営者から地代の徴収権を購入する。経営者は買い手に毎年の地代を納める義務が生じる。その後経営者が買い手から原価で地代徴収権を買い戻した場合、それまで納めた地代が利息の扱いを受けかねない。公債の場合も同じである。ある人が都市債を購入したとする。毎年の配当を受けた後、都市の買い戻しに応じたとする。都市が原価で買い戻した場合、配当は利息の疑いをかけられかねない。実際にこれが利息の偽装にしばしば使われたこともあって、アルプス以北の利息擁護論では、この問題をどう扱うかが占めるウェイトが極めて大きい。地代や公債の買い戻しの是非と利息擁護論の関係を解明するという課題が新たに浮上している。

Strategy for Future Research Activity

非常高利Notwucherの是認という新たな考え方の導入によって、30年戦争期に利息擁護論が慈善目的の利息の容認から営利目的の利息の容認に議論を拡張したという展開は、当該研究課題で得られた新しい知見である。史料調査を続けているヘルツォーク・アウグスト図書館の館長ペーター・ブルシェル教授は、当該研究の成果に対する期待を込めて、2018年8月に図書館の研究助成によって一カ月間当該研究を遂行するために先方負担で招待してくれた。筆者の研究成果はドイツでも注目されている。研究成果のドイツ語による執筆の依頼もすでに受けている。まず日本の学術雑誌に最低二本寄稿し、それをドイツ語に直して学術雑誌に寄稿することを考えている。
同時にヘルツォーク・アウグスト図書館で遭遇した新たな史料群の解析も継続して行いたい。地代の買い戻し、公債の買い戻しの是非をめぐる議論の考察は、利息擁護論の変化を考察するうえでも重要な論点を提供するはずである。最終年度もヘルツォーク・アウグスト図書館での史料調査を、すでに8月と9月に計画している。図書館サイドも当該研究課題の遂行に支援を惜しまないことを約束してくれている。現地史料調査と現地言語での成果報告の準備を合わせて進めたい。

  • Research Products

    (3 results)

All 2019 2018

All Journal Article (3 results) (of which Peer Reviewed: 3 results)

  • [Journal Article] (翻訳)ルイーゼ・ショルン・シュッテ著、カール・ランプレヒト―産官学連携のなかの文化史― その22019

    • Author(s)
      佐々木博光
    • Journal Title

      人文学論集

      Volume: 37 Pages: 47‐95

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] カルヴァン派と救貧―執事制度に関する一考察―2018

    • Author(s)
      佐々木博光
    • Journal Title

      史林

      Volume: 101 Pages: 427‐446

    • Peer Reviewed
  • [Journal Article] マックス・ヴェーバー説の現在―批判的考察の射程―2018

    • Author(s)
      佐々木博光
    • Journal Title

      西洋史学

      Volume: 226 Pages: 161‐172

    • Peer Reviewed

URL: 

Published: 2019-12-27  

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