2020 Fiscal Year Research-status Report
初期中世ヨーロッパ社会における「威嚇」の作法・形態・機能に関する研究
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17K03186
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
菊地 重仁 青山学院大学, 文学部, 准教授 (80712562)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カロリング朝フランク王国 / 威嚇 / 文書発給 / 修道院 / 紛争解決 / 歴史叙述 / 証書 / 規律・統制 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究プロジェクト4年目にあたる2020年度は、主として3方向から初期中世ヨーロッパ、とりわけカロリング期のフランク王国における「威嚇」の形態・作法についての研究を進めた。 まずは前年度から引き続きカロリング期フランク王国から伝来する種々の文書史料、とりわけ君主の命令書を中心とした威嚇行為・表現の分析を進めた。調査に基づき、君主による「恩恵」の剥奪という威嚇文言に注目し、同種の威嚇が行われた文脈や媒体、「恩恵」剥奪が実行された際の「罰」としての意義などを分析した1本の論考を執筆した(入稿済。論文集が出版準備中のため、下記実績一覧には記載していない)。 またカロリング期に執筆された編年誌・年代記などの歴史叙述史料の分析を進める中で、海域世界及びその世界の住人たち(ヴァイキングなど)の「脅威」としての描かれ方に注目し、威嚇の作法・認識に関する考察を進めた。成果の一部は日本西洋史学会大会小シンポジウム及びベルリン自由大学での研究セミナー(共にオンライン開催)で報告した。 さらに、「フランキア」やフランク王国、「(西方)キリスト教世界」などという(空間的な、あるいは概念的な)「まとまり」についてそれぞれ考察し文章を執筆する過程で、「外部」との「境界」に関する同時代認識に関する知見を得た。上記の海域世界との境界でありかつ接点でもある海岸を含め、「境界」は威嚇行為実践の場の一つであるがゆえに、今後の研究の方向性をさらに多角化することができたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
威嚇という行為に注目して史料を調査分析した成果を、前年度までと同様、今年度も論文の形にまとめ入稿することができた(出版準備中)。また、ここまで調査を進め成果も公表してきた文書史料(とりわけ君主文書)に加え、歴史叙述や聖人伝などの叙述史料に読み取れる種々の威嚇行為の事例収集・分析も進められている。さらに「威嚇」というテーマに関して、同時代のビザンツ史・イスラーム史研究者との対話を開始し、研究のさらなる展開の可能性も見え始めてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度にあたる次年度は、引き続き歴史叙述や聖人伝などの叙述史料に見られる威嚇の種々の形態の調査・分析を進め、論文の形にまとめたい。また10月に参加する予定の国際ワークショップ「修道制における権威と合意形成」での報告にあたり、本科研プロジェクトの成果も盛り込んでいく。さらにプロジェクトを総括すべく、5年間で得られた知見を整理し、フランク期における「威嚇の作法」について総合的に考察する。
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