2018 Fiscal Year Research-status Report

使用痕分析と製作技術からみたナイフ形石器群～細石刃石器群への文化変容に関する研究

Research Project

Project/Area Number	17K03212
Research Institution	Kagoshima University
Principal Investigator	寒川朋枝鹿児島大学, 埋蔵文化財調査センター, 特任助教 (30526942)
Project Period (FY)	2017-04-01 – 2020-03-31
Keywords	使用痕分析 / 石器技術学 / 小型台形石器 / 小型ナイフ形石器 / 細石刃石器群 / 石器製作使用実験 / 考古学 / 旧石器時代
Outline of Annual Research Achievements	本研究は、ナイフ形石器終末期石器群から細石刃石器群へ移行する文化変容過程について、石器製作技術と使用痕分析の観点から検討を行うことを目的とする。九州内の細石刃石器群については、使用痕レベルでの地域差があることが判明してきているが、ナイフ形石器から細石刃石器文化への転換期における各石器群の使用状況や製作技術の様相を比較検討し、九州各地の地域性や集団関係をより具体的に明らかにし、転換期の様相を概観する。小型台形石器については、南九州地域と西北九州地域（主に百花台遺跡資料）について、使用痕分析と石器技術学分析を行っている。分析の結果、ナイフ形石器文化終末期の小型台形石器については、南九州では多様な用途が想定される一方、西北九州地域では狩猟用に機能がある程度限定されていたと想定され、両地域において使用痕レベルでの地域差、すなわち機能差が認められる可能性が高い。西北九州では、南九州に比べ石器機能が分化していたとも考えられる。なお、南九州の小型台形石器については、日本考古学協会第84回総会研究発表において「南九州における後期旧石器時代ナイフ形石器文化終末期の小型台形石器の製作技術と使用痕分析」と題してポスター発表を行っている。そして使用痕分析の結果をもとに、石器投射実験・使用実験を行っており、今後も継続してデータを蓄積していく計画である。また、動作連鎖の概念に基づく石器技術学分析も行っているが、南九州における小型台形石器は、一定の規則性を有しつつも、原石の形状や剥離の進行、石材の特徴や製作者の技量等により臨機的にメトードを変化させる、いわば固定度の低い動作連鎖であることが読み取れた。製作技術についても使用痕と同様、南九州と他地域においては、石材環境を背景とした動作連鎖の相違、地域差が認められる可能性がある。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason 本研究課題では、九州内出土のナイフ形石器終末期の石器群（小型台形・小型ナイフ形石器）の使用痕分析と製作技術の観察と、石器製作使用実験から得られた結果をもとに、後続する細石刃石器群へと文化変容する様相について比較検討を行うことを目的とする。現在までの進捗状況としては、主に南九州・西北九州地域を中心に当該石器群の使用痕分析・製作技術の検討を行っている。具体的な方法としては、使用痕分析については、顕微鏡を用いた高倍率・低倍率法による使用痕分析を行い、また製作技術については、実際の資料を観察し、素材として選択された石材を用いて石器製作を行い、実際の出土資料と比較検証を行った。その結果、南九州・西北九州地域における小型台形・小型ナイフ形石器の使用痕・製作技術の特徴についてはほぼ把握しつつある。使用痕分析の結果、後続する細石刃石器群と同様に、ナイフ形石器終末期の石器群においても、石器機能の点で南九州に強い地域性が存在していたと現時点では想定している。それを裏付けるため、西北九州地域・南九州地域それぞれの小型台形石器の機能を想定し、投射実験等の使用実験を行っている。今後はさらに九州内出土資料の資料調査を行い観察データを増やし、使用実験も行い、それらを併せて検証をしながら、製作技術も含めた南九州と他地域との比較検討を行う。
Strategy for Future Research Activity	今後も引き続き、特に南九州と西北九州の小型台形石器を中心に観察データを蓄積しつつ、東九州地域のナイフ形石器文化終末期の資料についても資料調査を行い、九州内における地域差の比較検討を行う。小型ナイフ形石器・小型台形石器の機能については、後出する細石刃の先駆的形態の石器として近似性が指摘されることがあるが、ナイフ形石器から細石刃文化への転換期には、九州各地において多様な様相を呈している可能性がある。その背景として石材環境も踏まえ、小型台形・小型ナイフ形石器群と細石刃石器群の技術学的比較・検討が必要である。また、南九州の小型台形石器の具体的な機能については、まだ十分な検討ができていないため、製作された石器を用いての使用実験を引き続き行い、データを蓄積し検証する。後出する細石刃では、その一部に南九州に特徴的な広範囲に密集する線状痕が確認されている。現段階では、使用痕や製作技術の点でも九州内において地域差が存在すると想定しているが、細石刃と小型台形石器の具体的な機能を比較検討するため、条件（着柄・作業内容・対象物・作業方向など）を細かく設定して刺突・使用実験を行い、小型台形・小型ナイフ形石器に認められる使用痕がどのような作業・対象物によって生じるか、ナイフ形石器終末期の石器群と後続する細石刃石器群とでどのような類似点または相違点があるのかを明らかにするため、実際の石器群との比較検討を行う。
Causes of Carryover	年度末に行った石器使用実験の際に必要と思われる消耗品・物品費として計上していたが、既存のもので間に合ったため新たに購入することがなく、残金となった。翌年度の資料調査用の旅費として使用する。