2017 Fiscal Year Research-status Report
インドシナ半島における窖窯を用いた焼き締め陶器製作の比較研究
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17K03223
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
徳澤 啓一 岡山理科大学, 総合情報学部, 教授 (90388918)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インドシナ半島 / 窯構造 / 長楕円形状窖窯 / 地下窯と地上窯 / 写しの関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年の調査研究実施国をラオス北部及びベトナム北部としていたものの、ミャンマー東部の現地調査を実施することにした。というのも、すでにこれらの3つの地域の予備調査を終えた時点で、ラオス北部及びベトナム北部とミャンマー東部の窖窯には、窯構造の大きな違いがあることに気が付きはじめいたからである。平成28年度までの研究成果として、ラオス北部及びベトナム北部の「長楕円形状窖窯」とラオス中部からカンボジア東北部の「三角形状窖窯」という地域差を明らかにしたことがある(徳澤ほか2016など)。平成29年度の当該地域の調査によって、ミャンマー東部シャン州の窖窯は、窯床平面形等がラオス北部及びベトナム北部の「長楕円形状窖窯」のグループに属することを明らかにすることができた。ただし、ラオス北部及びベトナム北部とミャンマー東部では、相違点もあることから、このあたりのところを詳細に整理し直す必要がある(現在投稿準備中)。 また、これまでの現地調査の過程において、新たな情報に接することができた。タイ東北部において、廃絶されて数十年が経過した窖窯を見出すことができた。この窖窯は、長大であり、土被り上の煙道の径が大きく、煙突上の空気の引きを達成する構造を持っていたと考えられる。こうした構造が地下に存在する事例は管見になく、これまで伝播・移転と考えられてきた大型の地上窯について、地下式からの転換、すなわち、自生的な発生の可能性を孕むことになり、地下窯から地上窯へという関係を追求する必要が明らかになった。これに関しては、下記の「現在までの進捗状況」あるいは「今後の研究推進方策」のところで重点的に取り上げる事項になる(徳澤ほか2018発表予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査を重ねるごとに、これまで周知されてなかった焼き締め陶器製作の村寨や新しいタイプの窖窯を見出すことができている。すなわち、これまでの研究史に記載がない、あるいは、現地の研究者が知り得なかった情報に接することになり、その度に、これまでの研究計画や見通しが大きく揺らぐことになった。とくに、最近は、焼き締め陶器製作をすでに停止した村祭に出くわすことが多くなり、とくに、停止後数十年が経過している村寨では、複数の窖窯が埋積されているという言説が得られる。これまでは、大量の土砂や廃棄物(生活不燃ゴミ)で埋め戻されていることもあり、インタビューだけで窖窯の構造を把握してきた。しかしながら、2017年度の現地調査において、宅地開発に伴って、間もなく窖窯が破壊されるということであったので、緊急に機材を取り揃えて、発掘調査を実施した。その結果、やはり、これまでにないタイプの窯構造であり、しかも現生窯業で用いられている長大な地上窯と窯構造を同じくするようなものであった。すなわち、これまで地上窯は、窖窯から派生したというよりは、他地域の窯業文化から技術移転されて成立したものと考えられてきたが、同じ地域に地下式と地上式で同じような窯構造をもつということになると、伝播・移転という見方とともに、地下式から地上式へという地域内で自生的に派生したという見方も検討せざるを得ないというように考えるようになった。このあたりの研究の到達点に関しては、2018年5月日本考古学協会総会研究発表において、「メコン川西岸における焼き締め陶器製作と窯構造の特徴」として発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、「研究実績」のベトナム北部及びラオス北部とミャンマー東部の関係を整理するため、ミャンマー東部の現地調査をもう少し掘り下げる必要があると考えている。両者の間には、明確な窯構造の違いがあり、それが窯詰めする製品との関係の中で生じた可能性が高いと考えるに至った。そのため、窯構造だけでなく、製作器種の詳細な調査を追加し、上記の差異とそれが生じた背景を明らかにしたいと考えている。 また、「現在までの進捗状況」にまとめたとおり、当初の研究の見通しにはなかった地下式から地上式という移行が、異地からの影響というよりは、地域内での「写し」によると思われる事例が見つかった。すなわち、窯床平面形などを見ると、窖窯のものを受け継いだと見做せなくないものがある。まずは、「写し」かどうかを詳細に見極めるために、測量等を通じての精細な比較研究が必要であり、「写し」が普遍的なものか、限定的なものかを追求するためには、現地調査を広域に広げて、両者の異同を整理していく必要がある。そうなると、現生の窖窯の調査だけでは不十分ということが明らかとなり、数十年をさかのぼって、すでに廃絶され埋没した窖窯を発掘調査する必要が出てくる。史跡としての遺跡ではないものの、発掘作業には、期間と員数が必要である。また、「写し」の先である地上窯を調査対象に加える必要があり、現在操業中の地上式の煉瓦積み窯の測量にも着手する必要が出てきた。以上のとおり、新しい発見と着想により、大幅に調査計画を見直す必要がでてきている。
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