2018 Fiscal Year Research-status Report
日越交流史の新展開-ゲティン地域における朱印船貿易解明のための考古学調査-
Project/Area Number |
17K03229
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Research Institution | National Institutes for the Humanities |
Principal Investigator |
菊池 百里子 (阿部百里子) 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構本部, 総合情報発信センター, 研究員 (50445615)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ベトナム / 考古学 / 朱印船 / 日越交流史 / 東南アジア / 陶磁器 / ゲアン / ハティン |
Outline of Annual Research Achievements |
ベトナム北中部のゲティン地域には、17世紀に朱印船がたびたび寄港し交易活動を行っており、本研究は、当該地域の考古学調査や関連史資料の総合的な調査研究により、17世紀の日本人商人の活動を考察するものである。 本年度は、17世紀前半にゲティン地域の貿易を統括していた役人で、日本人の女性を養女に迎え入れていた文理候およびその一族の故郷であるハティン省カンロック県キムロック村において発掘調査をおこなった。出土遺物の様相から、17世紀以前から居住域であったこと、ベトナムや中国の陶磁器が出土し、これらの陶磁器がゲティン地域の港、ホイトン遺跡出土の陶磁器と共通性があることなどから、これらの貿易品が内陸部の居住域にまでもたらされ、流通、使用されていたことが確認できた。 また、ゲティン地域に来航し1609年に沈没した角倉氏の朱印船を探査するための水中考古学調査実施にむけた共同研究体制を構築し、協議を開始した。 さらに、フランスに残されているゲティン地域の資料を調査、収集した。 研究成果の公表では、2018年5月に第63回国際東方学者会議において、12月にはベトナムで開催された国際シンポジウムにおいて、1月にはThe Fourth Asian Association of World Historians Congressにおいて調査成果の一部を発表するなど、国際的な発信に努めた。このほか、学術論文を1本、国内学会において1回の研究発表を行った。 本研究は、朱印船へ商品を供給していた東南アジア大陸部東西回廊による交易の様相を解明するもので、ベトナム史、日本近世史、日越交流史などの各研究に新展開をもたらすとともに、クローバル・ヒストリー研究にも貢献する意義を有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ベトナム北中部のゲティン地域の考古学調査や関連史資料の総合的な調査研究により、17世紀の日本人商人の活動を考察するものである。 本年度は、ベトナムにおいて発掘調査を実施した。その結果、ベトナムに向かった朱印船の停泊地、国際貿易港ホイトンの港としての役割や、商品の流通圏などを考察するための資料を得ることができた。今後のさらなる研究の発展に資する調査研究となった。 また、国際学会や国際シンポジウムでの発表、学術誌への掲載など、計画より多くの研究成果公表を行うことができた。研究の意義を広く発信することができたことで、来年度に向けたあらたな共同研究組織の構築につなげることができた。 さらにベトナムでの調査においては、現地新聞社からの取材や撮影があり、日本とベトナムの交流の歴史や国際的な共同調査の様子、成果をベトナムの市民にも発信することができた。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ハティン省内にある、17世紀の日本人に関連する地点などでの発掘調査を継続して実施していく。同時に、本格的な遺物整理作業(代表的な遺物の実測など)を現地にて継続し、日本において遺構、遺物写真の整理を行い、本研究の最終年度に報告書として公開するための準備をすすめる。 また、沈没した朱印船の探査を開始するためのプレ調査を実施するなど、新たな共同研究開始に向けた準備を行う。 さらにゲティン地域で発見された日本関連史資料(家譜や武器など)の調査も実施する。この調査は、異分野の研究者との共同研究として推進していく。 そして、これらの研究成果や発掘調査成果とを合わせて、近世の日越交流史について総合的に分析・考察するとともに、これらの研究をさらに発展させるためのあらたな研究体制を構築し、研究を昇華させていく。 研究成果の公表では、英語やベトナム語での図書の出版も予定している。17世紀の日本とベトナムの交流の舞台は、これまで、ベトナム中部の世界遺産ホイアンを舞台として語られてきた。本研究は、日本とベトナムの交流史にゲティン地域というあらたな研究テーマを投入し、グローバルヒストリーの視座から多角的に朱印船貿易を捉えなおすものであり、積極的な国際発信により、当該研究領域を国際的な研究に押し上げる。
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Causes of Carryover |
当初は、当該年度の8月と3月の2回、ベトナムにおいて発掘調査を実施する予定でいた。8月の発掘調査は予定道り実施したが、3月の発掘調査については、現地共同研究機関より、多忙なため次年度に実施してほいいとの申し出があった。このため、3月の調査を次年度に延期することにし、この分の助成金を次年度に繰り越した。 次年度は5月と8月の2回発掘調査を実施する予定である。
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