2017 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の産業地域形成と生活基盤の再編に関する歴史地理学的研究
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17K03237
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
湯澤 規子 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20409494)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 近代日本 / 生活基盤 / 地域 / 暮らし / 人間 / 歴史地理学 / サステイナビリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究により、近代日本の経済発展の過程では、企業の勃興や分業化の進展と合わせて、消費、教育、労働、医療、福祉など「人びとの生活基盤」が大きく再編され、それがさらなる産業化へと繋がったことが示唆された。そこで本研究では、近代日本において産業地域の形成に伴って経済や社会にどのような変化がみられたのかを、人びとの生活基盤に着目して解明することを目的とした。産業地域形成を明らかにする対象としては「紡織業地域」と「果樹栽培・加工業地域」を事例としている。平成29年度は愛知県一宮市、山梨県甲州市勝沼における史料調査と聞き取り調査を実施した。また、他地域の織物業地域における「労働」「炊事」「食事」関連文書を収集し、分析に着手した。 その成果はまず、第69回日本人口学会大会(2017年6月10日:東北大学)にて「人口と栄養の近現代史―人口食料問題の都市農村比較」として報告した。また、近代日本の経済発展と女工の生活を関連付けた論考を、湯澤規子2017「教育と労働」(中西聡編『経済社会の歴史―生活からの経済史入門』名古屋大学出版会)216-235頁としてまとめ、刊行した。加えて、近代化と人びとの生活、価値観の変化の関係を論じた論考として、湯澤規子2018「ジェンダーから再考する地域と人間」(矢ケ﨑典隆・森島斉・横山智編『サステイナビリティ―地球と人類の課題』朝倉書店)104-113頁を刊行した。以上の研究成果を含め、近代日本の経済発展と人びとの生活基盤の編成をテーマとした著書『胃袋の近代―食と人びとの日常史』の原稿を執筆し、刊行に向けた準備を進めた。 また、本研究課題を深化させるために、「食と農の歴史研究会」を立ち上げ、7月24日、2月13日に開催した。その成果を反映させた日本農業史学会シンポジウム「食と農の地域史」をオーガナイズし、議論を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初設定した2つの事例地域(愛知県一宮市、山梨県甲州市)における史料収集と撮影、分析を順調に進めることができている。具体的には尾西歴史民俗博物館所蔵、鈴木貴詞家および林喜代家の近代織物業関係史料、「起共同炊事組合」を閲覧・撮影・分析してきた。また、織物業の盛衰や女工たちの暮らしに関する聞き取り調査も進めることができた。山梨県甲州市では共同醸造組合の歴史に関する史料調査、聞き取り調査を実施した。 上記の調査は「食と農」から歴史を再考するという問題提起として新しい研究会の発足、および日本農業史学会シンポジウム開催へと発展した。「食と農の地域史(ローカルヒストリー)」と題したこのシンポジウムは、次年度論文集としてまとめる予定である。 また、愛知県一宮市における近代織物業の発展と周辺農村の変化に関する研究は、東北大学で開催された第69回日本人口学会大会企画セッション「人口・家族の地域性―歴史的観点からみた都市と農村の比較」にて「人口と栄養の近現代史―人口食料問題の都市農村比較」として報告し、議論を深めることができた。 尾西織物業地域との比較研究のため、埼玉県川口市をはじめ、各地の織物業地域に関する史料収集も進めた。特に女工たちの労働、生活(衣食住、教育)に関する史料の収集に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
①研究成果の刊行:近代日本の経済発展と生活基盤の再編をテーマとした著作として『胃袋の近代―食と人びとの日常史』の刊行に向けた準備をし、平成30年度内の刊行を目指す。 ②比較研究の基礎データ収集:織物業地域との比較事例研究をさらに進めるために、桐生、富岡、川口などの紡織産業地域に関わる基礎データを収集する。産業史、社会史、日常史、経済史、農業史などに関する史料と情報を収集・分析に着手し、これまでの分析で用いた様々な視点をふまえて、歴史地理学としての新しい研究手法と研究視点を提示することを目指す。 ③国際学会での報告と議論:本研究のテーマである「近代日本の経済発展と生活基盤の再編」に関する研究成果を国際経済史学会大会(H30年8月、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン、マサチューセッツ工科大学)にて報告する予定である。H30年度はその準備もあわせて進める。 ④海外事例に関する史料収集:マサチューセッツ州の織物工場と女工に関する史料を集め、分析に着手する。とくに、女工の「食」や「生活」に焦点を当てて調査を進める。 ⑤論文としての成果発表:「食と農の地域史」シンポジウムの内容を特集論文としてまとめ、投稿する。
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Research Products
(3 results)