2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の産業地域形成と生活基盤の再編に関する歴史地理学的研究
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17K03237
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
湯澤 規子 法政大学, 人間環境学部, 教授 (20409494)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 下肥 / 屎尿 / 循環経済 / 衛生環境 / 日常史 / 食 / 産業地域形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
消費・教育・労働・医療・福祉・衛生などを含む「生活基盤」は、時代と共に変化し、整備されてきた。本研究では、近代日本における企業勃興、製造業の発展、工場の増加、それに伴う労働者の誕生という現象と表裏関係にある、生活基盤の整備、再編のプロセスを明らかにするための研究を進めている。 2020年度は愛知県尾西織物業地域(現:一宮市)を事例とした産業史研究を継続する中で、工場労働者の生活基盤としての便所や衛生環境の問題、つまり、「糞尿」の利用と処理についての分析と考察を進めた。その成果を社会還元することを企図して、単著『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』(ちくま新書、2020)として刊行した。これによって、これまで「生産」活動に偏重していた経済史研究に対して、消費・衛生・医療の視点から、新たな知見を示すことができた。近代日本における「循環経済」のひとつのあり方としても注目すべき現象が抽出されたため、現在、この成果を英文で発表する準備を進めているところである。 また、教育・労働・福祉に関わる「生活基盤」については、2018年に実施したアメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンでの資料調査、フィールドワークに基づく分析を進めている。これらは「食」からみた「日常史」の日米比較史研究として発表する予定である。 前年度から着手した労働・炊事・栄養・食事などをキーワードとした資料収集に加え、労働者の「間食」としての菓子に関する資料収集も始めている。製菓業(生産・流通・消費)は経済史における製糖業の研究の分厚さに比べて等閑視されてきたといってもよく、本研究では「生活基盤」の一環としての「間食」についても言及する必要性が見出された。現在では製菓業者、原料商、各組合などに関する資料収集を行っている。工場労働者の生活史資料に登場する「間食」の記録とも照らしながら分析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では2020年度に本研究を完了させる予定であったが、コロナ禍の影響で現地調査が実施できず、最終的な取りまとめには至らなかった。そのため、最終的な研究の完了を次年度へ延長することとなった。 ただし、本研究で目的としていた近代日本の産業地域形成と生活基盤の再編については、着実な成果が得られており、加えて新たな資料やテーマが見出されている状態である。そのため、総合的に見て、概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、下記の①~⑤の課題に取り組み、研究の総括を行う。 ①近代日本の下肥利用と屎尿処理からみた循環経済に関する研究を、英語論文として公表する準備を進める。 ②アメリカ合衆国マサチューセッツ州で収集した資料の分析を進める。 ③②の結果を「生きるについての日米女性比較史(仮)」というテーマにまとめ、刊行を目指す。 ④日本における産業地域形成と生活基盤の再編の問題を、戦後高度経済成長期まで視野を広げて論じ、2021年度の地域農林経済学会のシンポジウムで発表する。 ⑤④の成果をふまえ、「食」から見た戦後日本の生活基盤の再編をテーマとした研究に着手する。
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Causes of Carryover |
①コロナ禍の影響で現地調査が実施できなかったため。②実施予定であった研究が未完となったため。以上の理由により、支出額が予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。 延長した次年度において、現地調査および研究完了に向けた作業を行う予定であり、これに使用する計画である。
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Research Products
(5 results)