2017 Fiscal Year Research-status Report
GISデータベースの活用による前方後円墳の地域性に関する歴史地理学的研究
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17K03245
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
出田 和久 京都産業大学, 文化学部, 教授 (40128335)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 前方後円墳 / 円墳 / 地域性 / GISデータベース / 歴史地理学 / 古代豪族 / 分布論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以前に構築した前方後円墳データベースのデータ更新と追加をした。また、古墳時代後期、特に10期編年の10期に前方後円墳築造のピークがあるという特異な動きをみせる関東地方を中心に主要円墳・方墳に関する資料収集をすすめた。 この資料収集は不十分であるが、関東地方を例に豪族と前方後円墳を中心とする古墳との関連について若干の検討を試みた。北関東では利根川流域の上毛野地域は『日本書紀』に豊城入彦命に始まる氏族伝承が記載されている上毛野氏の拠点と考えられ、大和王権との密接な関連が考えられる地域であり10期における前方後円墳の盛んな築造との関連に注目した。分布にとどまらずさらに副葬品を含めた詳細な資料収集により『古事記』『日本書紀』にみえる上毛野氏に関する多彩な伝承と合わせて後の上毛野君や車持君との関連についても手掛かりが得られないか、あるいは同様に多数の前方後円墳が築造された北武蔵地域や武蔵国造の反乱伝承との関連などについての検討の必要性を改めて認識した。 また、風土記が残る常陸国を例とした検討も試みた。10期の前方後円墳分布と推定国造支配領域とを対比してみると、新治、筑波、多珂の各国造領域には有力前方後円墳が見当たらないのに対して茨城、那賀、久慈の各国造領域には少数の有力前方後円墳がみられ、これらの地域の豪族と古墳との関連を有力円墳も含めてさらに詳細な検討をしなければならない。 また、立地について地形分類図を古墳分布に重ね一部地域で調査結果を踏まえて若干の予察的検討を行った。有力円墳の立地は前方後円墳の立地と類似しているが、主に関東地方での調査からの検討であることも影響しているかも知れないが、古墳からの眺望や周囲からの見えやすさという点では前方後円墳ほどは重視していないのではないかとの感触を得た。古墳を築造する地方首長層のレベルの差が反映されている可能性があろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はまず、GISを使用して古墳立地の土地条件を検討する際に利用する土地分類基本調査による地形分類図のデジタルデータを入手し、ArcGISで利用するためにrectifyを行なった。この作業は効率を考慮して当初予定していた関東地方にとどまらず主要な全国の平野部について行った。この際、ArcGISに習熟している研究者の協力を得た。この点に関しては予定を上回る進捗があった。 一方、資料収集として前方後円墳に関する新資料の追加入力、国および県の史跡指定を受けた円墳・方墳のデータ整理を、学生アルバイトを雇用してすすめる予定であったが、今年度から代表者の勤務先変更により適当な学生アルバイトを雇用できず、今年度調査地域とした関東地方を中心とした新資料の追加入力と資料収集にとどまった。また、当初ArcGISのライセンスを購入する予定であったが、以前の科研で分担者としてあてがわれたArcGISが利用可能で、機能的にも今次の研究実施に特に問題は生じないことから新規購入を取りやめた。以上のようなことから次年度への繰り越しが生じた。 また、現地調査は関東地方を中心に四国地方等で実施したが、前方後円墳に比べると円墳・方墳については情報収集に時間を要することが多く、詳細な位置が不明であるものもあり、調査には予想以上の時間を必要としたがほぼ計画通りに調査を実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に調査を実施した結果、主要なものに限定しても円墳・方墳に関する事前の情報収集には当初予想したよりも時間がかかること、さらに現地での調査についても位置情報が必ずしも十全でないことも多く、まら前方後円墳に比べると規模が小さいことが多く、そのためこれまでの調査よりも古墳を探す時間が余計にかかる可能性が大きくなったことから、繰り越し額の内からある程度は旅費に振り向けて充実した調査を実施したい。 主要な前方後円墳を中心とした古墳が多く分布する平野のいくつか取り上げて、古墳の立地や分布およびその密度との関連を生産地との関連で検討することを考慮しているので、地形分類図を活用して「谷底平野および後背湿地」等の水田可能地の面積をGISソフトを使用して具体的に計算して、古墳の規模や密度、造営時期等との関連について検討したい。ArcGISによる面積計算等の作業にはできるだけArcGISの使用に習熟している研究者の協力を得たい。 また、古墳を造営した古墳時代の豪族と7世紀以降の古代豪族とは必ずしも直接的に繋がらないこともあり、両者の関係を古墳の分布や時期、副葬品等と関連させながら考古学資料や文献史料を利用してどのように理解するかは専門的にも難しいことであるので、日本古代史研究者や考古学研究者とも意見交換をし、助言を得ながら研究を進めたい。 なお、研究成果の公表について当初予定していた前勤務校の「全国版前方後円墳データベース」に追加する形で行うことを考えていたが、前勤務校のセンター組織の改編があったため予定通りできない可能性もあるので、今後その場合の対応を検討する必要が生じてきた。
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Causes of Carryover |
学生アルバイトの雇用を予定していたたところであるが、勤務先が変更になり、アルバイトとして雇用するにふさわしい能力と適性のある学生を見出すに至らなかったためアルバイト謝金の支出が大幅に計画を下回ったことおよびGISソフトを購入予定であったが、以前に分担者として関わった科研で購入されたGISソフトが引き続き使用でき、当該ソフトの仕様で本研究の実施に差し支えないことが判明したために新たにGISソフトを購入しなかったことから予算の使用実績が計画をかなり下回った。 30年度はアルバイト雇用できる学生を確保して資料収集やデータの整理を進めて平成29年度に予定通り進められなかった分をカバーすることとしたい。また、現地調査に当初予想したよりも時間がかかり旅費の不足が見込まれることから、次年度使用額の一部は旅費にも振り向けたることとしたい。
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