2017 Fiscal Year Research-status Report
日本における遊興街の生成・維持―戦後から現在までの都市空間誌―
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17K03246
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 遊興街 / 都市空間 / 基地 / ジェンダー / エスニシティ / 差別・排除 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者自身のこれまでの研究では,都市空間に投影された差別・排除の構造を,戦後日本の各都市・地域の米軍基地周辺遊興街を事例に,ジェンダーの視点から解明してきた。本研究では,米軍基地を背景に持たない遊興街にも調査の対象を拡げ,遊興街がどのように生成され,そして維持されていったのかを,遊興街をめぐる諸主体間の権力関係やポリティクスに着目して明らかにする。平成29年度は,研究代表者のこれまでの研究で手を付けていなかった広島県呉市を中心に調査を進めた。 1889(明治22)年,海軍本拠地の一つとして呉に鎮守府が置かれて以来,第二次大戦まで,呉は横須賀,佐世保,舞鶴とともに軍港として重要な役割を担った。戦前の公娼制の下,軍隊や工廠を抱えた事情を背景に軍港都市は遊廓を抱えた。呉にも1895年に遊廓が誕生した。明治中頃から大戦時まで軍港都市として栄えた呉に関する資料(遊廓関連の資料含む)や,敗戦後のアメリカ占領軍や中国四国地方に進駐した英連邦軍による呉の占領政策に関する資料などは,行政や研究者によって丹念に整理されてきた。しかし,進駐軍向けに用意されたとされる呉の特殊慰安所やそこで働いた女性たちに関しては,当時の公式資料は残されていない(呉市史第8巻,p.664参照)。そこで,広島県立図書館,同県立文書館、呉市立図書館において,当該地域で発行された地方紙,呉市議会議事録,広島県警察史を中心に閲覧した。呉の特殊慰安所は開設後すぐにGHQの命令で閉鎖されたが,かわって特飲街がいくつも立地し,そこには売春を生業とした女性たちを束ねる業者組織が存在し,組織ごとにテリトリーをもっていたことを明示する資料を入手した。また,英連邦軍兵士は江田島に駐屯の米軍兵士より報酬が低く,そのうえ所属国の違いでも報酬に差があり,エスニシティによる格差・差別の問題が占領地にまで持ち込まれていたことも推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者自身のこれまでの研究では,敗戦直後~1950年代初期を中心に,沖縄県内および本土の米軍基地周辺遊興街について調査してきた。本科研の平成29年度の研究計画では,1950年代中頃~現在までタイムスパンを長く取り,これまで調査してきた米軍基地周辺遊興街のいくつかについて,再度資料収集や現地調査を行う予定であった。しかしながら,論文執筆や所属学会での活動に時間を取られ,調査対象地での資料収集や現地調査にまとまった時間を割くことが難しかった。そのため本年度は,従来の研究で手を付けていなかった広島県呉市を中心に調査を進めるに留まったが,30年度の計画であった,戦前の公娼制時代から存在した遊興街について,大阪市内と奈良県内にて日帰りで数回の現地観察や資料収集を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度はまず,29年度に捗らなかった調査(沖縄県内および本土の米軍基地周辺遊興街のいくつかについて,1950年代中頃~現在までを対象に調査)を行う。その成果の一端を,8月初旬に開催されるIGU(国際地理学会議)の地域大会(於:ケベックシティ)にて口頭発表を行う。本年度後半は,米軍基地を背景にもたない,戦前の公娼制時代から存在した遊興街(おもに大阪市内)について,戦前からの資料を収集するとともに,売春防止法以降~現在までの変容について追うことのできる資料を探す。また,調査対象の遊興街の変容について知る方への聞き取り調査も試みたい。なお,戦前の公娼制時代から存在した遊興街については,すでに29年度に大阪市内と奈良県内において資料収集や現地調査を実施した。本年度はさらに調査を進めたい。 また,31年度は東京都内において,米軍基地を背景にもたない遊興街をいくつか調査する予定である。本科研の最終年度にあたる32年度は,所属学会での口頭発表ならびに論文の投稿を行い,研究成果の出版に向けた準備を始める。
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Causes of Carryover |
29年度は,海外専門雑誌(英文)への論文執筆や所属学会での活動に時間を取られ,調査対象地での資料収集や現地調査にまとまった時間を割くことが難しかった。30年度は,当初から予定しているIGUの地域大会(於:ケベックシティ)への参加のほか,29年度に捗らなかった調査(沖縄県内および本土の米軍基地周辺遊興街のいくつかについて)を行う。また,米軍基地を背景にもたない,戦前の公娼制時代から存在した遊興街についても,戦前から戦後にかけての資料を収集しつつ,大阪市内を中心に現地調査を行う。とくに資料収集では,戦前から戦後にわたる長い期間について新聞記事を検索する作業を行うが,作業を進めるために学生をアルバイトに雇いあげることも考えているので,29年度から30年度に繰り越した助成金額の一部をこれに使用したい。
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Research Products
(1 results)