2018 Fiscal Year Research-status Report
日本における遊興街の生成・維持―戦後から現在までの都市空間誌―
Project/Area Number |
17K03246
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 戦後 / 占領軍 / 遊興街 / 権力関係 / ジェンダー / 差別・排除 / 空間のポリティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、終戦直後から日本の各都市に進駐した連合国軍(とくに米軍)の駐留地周辺に売春街を含んだ遊興街がつくられたことに関心をもち、占領期の遊興街形成をめぐってどのような主体が存在し、それら諸主体の間にどのような権力関係が形成されたのか、また、そこから生じる差別・排除の構造について、ジェンダーの視点から解明してきた。こうした研究の知見を活かし、本研究では、米軍だけでなく英連邦軍が進駐した中国・四国地方の都市も調査対象とする。また、戦後の都市空間には一般男性向けの売春街もつくられていった経緯があることから、この点にも調査の対象を拡げる。遊興街のもつ多面性に注目し、占領期~売春防止法施行までの間、都市の遊興街がどのように生成・維持されていったのか、諸主体間の権力関係やポリティクスに着目して明らかにする。 本年度は、8月にケベックシティで開催されたIGU(国際地理学会議)地域大会においてOccupation forces and Prostitution in Japan after World War Ⅱの題目で、昨年度から着手した研究成果の一端を口頭発表した。明治期、呉市内には海軍基地が置かれ、行政公認の遊廓も設置された。終戦直後、呉市には米国占領軍が進駐し、米兵向け性的慰安施設が設置された。4ヶ月後、英連邦占領軍が呉市に進駐した。当該占領軍は当初からフラタニゼーション(fraternization)政策を掲げ、兵士と地域住民の交際や、兵士と日本人女性との恋愛、性的慰安施設の利用を禁止した。しかし実際には、当該占領軍や呉市行政は売春の横行に悩まされ、都市空間やそこでの身体の管理を強化していった。英連邦軍と米軍の占領政策の違いが売春街にもたらす影響に着目し、占領期の都市空間にどのような空間のポリティクスを読み取ることができるのか、当時の行政資料や新聞を参考に明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度からスタートさせた研究の成果の一端を、当初の計画どおり、平成30年8月初旬にケベックシティ(カナダ)で開催されたIGU(国際地理学会議)地域大会で口頭発表した。 昨年度の調査・研究対象である進駐軍兵士用の売春街を含む遊興街に加え、30年度の計画では、軍隊の駐留を直接的な背景とせず発生した、一般男性を相手とする売春街(すなわち、旧赤線・青線、花街など)も対象に、それら遊興街の成立や現在に至る変容の過程を調査する予定であった。しかし、IGU(国際地理学会議)地域大会での口頭発表準備のため、30年度の研究計画に着手したのは秋以降となった。 30年度秋以降の調査・研究では、大阪府内および兵庫県内の遊興街のいくつかに加え、京都府内や奈良県内の遊興街も対象として、それら遊興街とその周辺地域の歴史的変遷を知る手がかりとなる資料・図書を購入し、遊興街の成立背景や変遷を整理した。また、戦前から続いた近代公娼制について整理しておく必要から、関連する図書を購入した。
|
Strategy for Future Research Activity |
戦後占領軍の駐留を直接的な背景とせず発生した売春街(すなわち、旧赤線・青線、花街など)について、近畿圏内を調査対象に、平成30年度からの調査・研究を継続して行う。また次年度は、東京都内や神奈川県内においても、軍隊の駐留を背景にもたない売春街を対象に調査を行う予定である。そのため、調査対象の売春街とその周辺地域の歴史的変遷を知る手がかりとなる資料・図書の購入を予定している。 また、海外の売春街について、その形成過程や売春街をめぐる行政側の管理・監視のポリティクス、「性を商品化」する空間としての売春街における諸主体の権力関係など、本研究にとって有効な知見となる海外の先行研究を整理する。 研究成果の一端を、次年度秋に開催される人文地理学会大会で口頭発表する予定である。
|
Causes of Carryover |
30年度は、当初から予定していたIGU(国際地理学会議)の地域大会(於:ケベックシティ)で口頭発表を行ったため、助成金の一部を海外旅費として使用した。しかし、国際学会発表準備に当初予想していた以上の時間を要したため、30年度に予定していた研究対象地域に関する文献資料の整理が遅れ、現地での実質的な調査を当初予定した回数ほど行えなかった。また、学生アルバイトを資料整理の作業に予定していたが、資料収集の遅れから、学生アルバイトに作業依頼する量がかなり少なかった。上記のような理由で30年度の配分額に余剰が生じたため、次年度に繰越しする。 次年度は、現地調査の機会を可能な限り十分確保する。また、資料収集では、戦前から戦後にわたる長い期間について新聞記事を検索する作業を行うため、30年度からの繰越金額の一部を学生アルバイト雇上げに使用したい。
|
Research Products
(4 results)