2019 Fiscal Year Research-status Report
日本における遊興街の生成・維持―戦後から現在までの都市空間誌―
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17K03246
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 遊興街 / 都市空間 / 権力関係 / ジェンダー / セクシュアリティ / 空間のポリティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまで、日本の敗戦直後から各都市に進駐した連合国軍(米軍や英連邦軍)の駐留地周辺に売春街を含んだ大小いくつもの遊興街がつくられたことに関心をもち、占領期においてこうした遊興街がいかに形成されていったのかを、都市社会地理学的研究として取り組んできた。そこでは、占領期の都市空間にはらまれる重層的な権力関係について、とくにジェンダーの視点から捉えることに主眼を置いていた。 これまでの研究代表者の知見を踏まえ、本科研研究では対象時期を拡大して1952年の対日講和条約から現在までとした。また、ジェンダーの視点に加えてセクシュアリティやエスニシティの視点からも、都市空間内部における諸権力の関係を浮き彫りにしていくこととした。対象時期を拡げて研究代表者のこれまでの研究と時間的連続性をもたせる意図は、時代が経過しても遊興街が担う快楽的・性風俗的役割は温存され、今日の都市空間に内包されている場合が多いことを立証するためである。また、売春街を含んだ遊興街は売春女性の身体やそれをめぐる男性のセクシュアリティを包摂し、さらに時代の経過とともに、遊興街に関わる人々(そこでの雇用主および被雇用者)のエスニシティやセクシュアルアイデンティティも変化していることにかんがみ、多面的な視点から検討する必要があると考えた。 本年度は、沖縄県沖縄市や同県金武町において、ベトナム戦争前後から現在までの遊興街の推移について、現地で聞き取り調査を実施した。また、山口県岩国市についても、朝鮮戦争やベトナム戦争から現在までの遊興街の推移を都市計画や政府の対米政策との関係を中心に、地元図書館や国会図書館で資料収集を行った。これらの調査から、遊興街に関わる人々(のエスニシティやセクシュアルアイデンティティ)の変化にともなう多様な行為主体が、複雑な関係性を構築しながら遊興街が維持されてきたことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者がこれまでの研究で対象としてきた沖縄県の沖縄市や金武町、長崎県佐世保市、山口県岩国市、広島県呉市、神奈川県横須賀市など、連合国軍が駐留して基地化した都市については、日本の敗戦後から対日講和条約締結までのいわゆる占領期に関する資料収集をある程度終えていた。これに加え本科研研究では、前述の諸都市について対日講和条約以降の資料を収集することに加え、基地を背景にもたない(兵士の利用がない)旧赤線・青線地区、花街などの遊興街について、その変容を明らかにするための資料収集を目的としている。兵士の利用を前提としていた基地周辺の遊興街は衛生環境や性病発生の観点から厳しく管理される一方、基地を背景にもたない遊興街は邦人の利用が主で、両者の遊興街には異なるポリティクスが働いていたと考えられる。したがって、成立背景が異なる遊興街の変容過程を、都市社会地理学的観点からみていくことが重要である。そのため、本年度後半には東京都内や大阪府内を中心に旧赤線・青線地区の現地調査や資料収集を十分に行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響で研究が少し遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は本科研研究の最終年度にあたるため、研究成果をまとめる必要がある。そこでまずは、本年度の人文地理学会大会で特別研究発表として「都市空間における身体と権力」の題目で本科研研究成果の一部について報告した内容を、海外の地理学関係の学術誌に投稿する予定である。投稿論文の執筆に加えて、本年度にやり残した資料収集や現地調査を行う必要がある。そして、国内の地理学関係の学会で口頭発表を行うとともに、本科研の研究期間に行った国内外の学会での報告内容を出版できるよう、原稿の執筆に取りかかる。
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Causes of Carryover |
本年度は、5月下旬に沖縄県内の研究対象地域に聞き取り調査と資料収集に訪れたが、それ以降は、秋の人文地理学会大会で特別研究発表を行うための準備や、日本地理学会でのシンポジウム開催、別の科研研究の分担者として陸前高田での現地調査実施などで時間を取られた。2月から3月にかけて現地調査や資料収集を数回行うよう計画を立てていたが、新型コロナウイルスの影響で、とくに3月に入ってからは現地調査はもちろん、各図書館の閉鎖で資料収集もできなくなったため、次年度への繰り越し額が多く生じた。 次年度は海外の学術誌への投稿を予定しているので、論文の英文校正を何度か受ける必要があり、この経費が必要である。また、投稿論文や国内学会での発表、それらを整理して出版に向けた原稿の執筆にあたっては、資料のデータ化や地図化が必要になるため、学生アルバイトの雇上や研究をアシストする業者への作業発注を行う。
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Remarks |
2019年日本地理学会秋季大会、シンポジウムでの報告「ジェンダーの視点から何が見えるようになったか―日本の地理学における成果と可能性―」
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Research Products
(1 results)