2020 Fiscal Year Research-status Report
日本における遊興街の生成・維持―戦後から現在までの都市空間誌―
Project/Area Number |
17K03246
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 遊興街 / 都市空間 / 権力関係 / ジェンダー / セクシュアリティ / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の従来の研究では、日本の敗戦直後から国内各地の連合国軍駐留地周辺に発生した遊興街(売春街を含む)を対象に占領期の遊興街形成過程を明らかにする中で、都市空間にはらまれる権力関係に注目してきた。こうした研究の知見を踏まえ本科研研究では、対象時期を敗戦から現在まで拡げた。その意図は、時代が経過しても、快楽的・性風俗的役割を温存した今日の遊興街が、都市空間の一部を構成していることを検証するためである。また、遊興街は売春女性の身体やそれをめぐる男性のセクシュアリティを包摂し、さらに時代の経過とともに遊興街に関わる人々のエスニシティやセクシュアルアイデンティティが変化していることから、ジェンダーを含むより多面的な視点から検討する。 研究最終年度に研究成果をまとめるため、過去3年間に実施した現地調査や資料収集に関する補足調査を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響から補足調査が行えず、成果をまとめる最終段階に辿り着いていない。 本年度の実績として、各調査地で膨大な地元新聞の収集を行ってきた成果の一端を、勤務校の「アジア・ジェンダー文化学研究センター」が主催した国際シンポジウム「都市空間とジェンダー:身体表象と記憶をめぐって」において、「敗戦後の日本の都市空間はどう描かれたか―当時の新聞記事見出しを資料として―」を発表した(同センター報告書に掲載)。これは、各調査地域で戦後発行された新聞の記事見出しを分析し、軍隊・基地周辺の歓楽街や、歓楽街をめぐる様々な立場の人たちがどのように描かれ、表象されたかを考察したものである。戦後日本の都市空間は戦勝・支配/敗戦・従属の権力関係が表出される場で、それは国家のレベルのみならず、さまざまな主体間に発生する力関係の表出の場であったこと、そして、売春女性の身体には戦勝国側の権力が否応なく残忍に行使されたことなどを報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者が従来研究テーマとしてきた、敗戦直後から日本各地の連合国軍駐留地周辺に発生した遊興街(売春街を含む)の形成過程を都市空間にはらまれる権力関係に注目して明らかにすることについて、本科研研究では対象時期を敗戦から現在まで拡げて現地調査や資料収集を行うことに加え、基地を背景にもたない(つまり、兵士の利用がない)旧赤線・青線地区、花街などの遊興街についても、その変容を明らかにすることを目的としている。兵士の利用を前提としていた基地周辺の遊興街と、基地を背景にもたない遊興街との間では、異なるポリティクスが働いていたと考えられるため、成立背景が異なる遊興街の形成過程を都市社会地理学的観点からみていくことが重要である。そのため、東京や大阪都心部の旧赤線・青線地区の現地調査や資料収集を綿密に行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響で研究が遅れ、この遅れが本科研研究の最終段階のまとめに影響を与えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究成果の最終的なまとめを行う必要がある。まずは、海外の地理学関係の学術誌に投稿する予定である。これは、日本の戦後から現在までの遊興街の形成過程や変容に関する研究が海外の研究者に対してほとんど発信されていないことにかんがみ、都市空間とジェンダーやセクシュアリティを考えるうえで、海外研究者との情報共有が非常に重要であるとの考えからである。投稿論文の執筆に加えて、資料収集や現地調査の補足を行う必要がある。そして、本科研研究の最終成果を出版できるよう、原稿の執筆に取りかかる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で昨年度3月に実施予定の現地調査ができず、また各調査地の図書館も閉鎖されたため資料収集も行えず、本年度への繰り越し額が生じたうえ、本年度も現地調査や一部の資料収集ができなかった。このため研究成果の最終的なまとめが遅れ、予定していた海外学術誌への投稿や出版への準備が遅れた。 次年度は海外学術誌への投稿論文を完成させ、出版に向けての原稿執筆を行う予定である。これらの原稿執筆にあたって、資料をデータ化や・地図化する作業が必要なため、研究をアシストする業者に作業を発注する。また、海外学術誌への投稿には英文校正を何度か受ける必要があり。次年度はこれらの経費が必要である。
|
Research Products
(2 results)