2021 Fiscal Year Research-status Report
日本における遊興街の生成・維持―戦後から現在までの都市空間誌―
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17K03246
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉田 容子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70265198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 遊興街 / 都市空間 / 権力関係 / ジェンダー / セクシュアリティ / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染拡大の影響のため研究対象地域で最終段階の補足調査ができなかったことから、2021年度は文献資料の整理等を中心に行いながら論文執筆の構想をまとめた。 文献資料の整理に関しては、2021年度に購入した『編集復刻版 占領軍による人身被害調査 資料集』(全6巻)に収録の調査票をデータベース化する作業に着手した。当該資料は、かつて存在した「調達庁」という政府機関の労働組合が連合国軍による占領期の被害を把握するため、1958年に北海道から九州までの全国各地で調査を実施し、収集した1300余りの調査票を復刻した貴重なものである。当時、沖縄を対象に調査は行われなかったが、連合国軍による被害の状況について詳細に調査されている。調査票の表・裏には、被害者の性別・年齢、被害に遭った場所(住所)・日時、被害時の状況、加害者の所属等の情報、被害の程度(死亡の有無やけがの状況)、被害後の生活状況などを記入する欄が設けられており、被害者本人またはその家族による詳細な記述が残されている。 調査は連合国軍所属の兵士から被害にあった男女を対象に実施されたが、調査票からは女性に対する性的犯罪をほとんど読み取ることができない。被害の多くは連合国軍兵士からの一方的な暴力(拳銃による射殺を含む)や交通事故で、男性の被害者が目立つ。だからといって、女性への性的犯罪が少なかったと結論付けることは適切ではない。当時のこうした調査において、被害の当事者あるいは家族が性的暴力被害の詳細をあからさまにできず、その結果として、ほとんど表面化されなかったとみるのが妥当であろう。なぜ女性の被害申告が少ないのか、そこにはジェンダーが抱える問題が内包されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響から、これまでの研究期間内に現地調査(図書館等での過去の新聞・資料の収集、現地観察等)を行った地域について最終的な補足調査が行えなかった。そのため、研究成果の最終的なまとめにやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究成果の最終的なまとめを行う必要がある。1点目として、海外の地理学関係の学術誌に投稿する予定である。日本の戦後から現在までの遊興街の形成過程や変容に関する研究が海外の研究者に対してほとんど発信されていないことにかんがみ、都市空間とジェンダーやセクシュアリティを考えるうえで、海外研究者との情報共有が非常に重要であるとの考えからである。2点目として、本科研研究の最終成果を国内の学術誌に投稿するか、あるいは図書のかたちで出版できるよう執筆作業を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で最終段階の補足調査ができず、そのため研究成果の最終的なまとめが遅れて、予定していた国内外の学術誌への投稿が遅れたことから、次年度に研究を延長することにした。 次年度は投稿論文を完成・投稿する予定で、これらの原稿執筆にあたって資料をデータ化・地図化する作業が必要なため、研究をアシストする業者に作業を発注する。また、海外学術誌への投稿には英文校正を何度か受ける必要があり。次年度はこれらの経費が必要である。
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Research Products
(3 results)