2019 Fiscal Year Research-status Report
避難の意思決定における人的つながりの影響からみた避難困難の地域特性
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17K03259
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Research Institution | Nagoya Keizai University |
Principal Investigator |
村山 徹 名古屋経済大学, 経済学部, 准教授 (80706862)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 避難行動 / 人的ネットワーク / 社会的規範 / 防災情報 / 災害リスク / ハザードマップ / 防災意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、避難行動に資する災害心理、親族の周辺居住や近所づきあいといった人的つながりなど、ハード面だけでなくソフト面に注目することで災害避難の地域特性を解明することを目的とする。そこで、本年度は避難判断に影響する心理要因に注目し、アンケート調査をさらに詳細に分析した。 分析結果からは、平常時からの隣人とのつながりが避難行動に良い影響をもたらすことが改めて確認された。避難行動を促進する要因を知覚・情報・つながりの3カテゴリーでたずねた結果、知覚と情報要因で避難を決定するとの回答割合は少なかったが、隣近所による促しや家族からの連絡といった要因では8割強が避難すると回答した。この結果には有意な地域差は見られなかった。 くわえて、他者が自分に対してある行動を行うことをどの程度期待しているかといった主観的規範と、すべき/あるべきといった当為的な命令的規範といった平常時の社会的規範に注目して、避難のきっかけの地域差を分析した。その結果、主観的規範による避難の可能性が災害リスクの高い校区で低リスクの校区より高く、逆に命令的規範は低リスク校区の方が高リスク校区より高くなった。したがって、平常時の心理的要因が実際の避難行動を左右すると仮定すれば、災害リスクの低い地域では避難勧告などの行政情報によって避難を促進しやすいが、リスクの高い地域ではコミュニティのつながりがより効果的に機能する可能性があることが明らかになった。 以上の分析結果等については、今年度発行した著書を通じて発表し、さらには研究拠点エリアの新聞紙面にもコラムとして投稿することで、研究成果の発信に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、前年度に実施した3000世帯強を対象とした災害避難に関する意識調査の結果をさらに分析すること、そして、その研究成果を、学界だけでなく広く一般社会に向けて発信することでの社会実装に努めた。 GISを用いた人的つながりの空間分析に関しては、データ可用性の観点等から軌道修正を図ったため、当初計画とおりとは言えないが、避難判断に資する人的つながりの重要性に関してはさらに意義ある分析結果が得られたと考えている。 さらに、研究成果の発信については、書籍の一部に研究成果を生かすことができたことは大変意義があり、さらには新聞紙面において掲載できたことは一般社会に向けた成果の発信になったと考える。 しかし、研究環境が変わったことが影響し、学会報告や学会誌への研究成果の投稿が当初計画に比べて一部で不足したため、その点に関しては改善の余地が残る。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況にも述べたとおり、GISを用いた空間分析に当初計画時には予測できなかった困難が生じた。そこで、空間分析に関しては軌道修正を図ったため十分な成果とはならず、今後の研究テーマ継続においての検討課題となった。 一方で、社会的規範の影響による避難判断の地域特性については当初計画以上の研究成果が得られた。しかし、研究環境の変化による多忙の影響で、特に学会に向けての成果の発信が一部で不足したと感じられるため、継続して発信していく必要があると考える。
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Causes of Carryover |
当初計画に比べて、現地での主たる調査後の補足調査が実施できなかったことと、研究拠点の移動に伴い、学会発表の回数が少なくなったことが影響している。
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