2019 Fiscal Year Research-status Report
香港のイスラーム・ブームとムスリム社会の「周縁化」
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17K03282
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
王 柯 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80283852)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 香港 / イスラーム / 改宗者 / 相対的貧困 / 一国二制度 / 宗教観 / 自己同一性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまでの調査と文献研究を通じて、香港のイスラーム社会の歴史を究明しただけではなく、現在の香港イスラーム社会の構造と特徴を把握し、その上で改宗者の特徴の分析を通じて、改宗者増加を招いた社会構造的原因の究明に近づきつつある。香港の六つのモスクのなか、規模が最大ではない愛群道モスクは実に中心てきな存在であり、香港イスラーム連合会や青年会の本部がここに置かれたためではなく、香港のムスリム市民は歴史的にこれを利用してきたためだ(他の五つのモスクは基本的に国別の外国人出稼ぎ労働者や観光客が利用している)。このモスクのウラマは宗教的修養だけではなく、広い知識を持ち、理性的で信者から厚い信頼を得ている。これを含む香港イスラーム社会の様々な条件は香港市民によるイスラーム改宗に繋がった。 本研究は数年の現地調査と調査結果に対する研究を通じて、漢人である香港市民改宗者の特徴を明らかにしつつある。1、年齢的にほとんど30代以下である;2、中国返還以降始まり、増加傾向が強い;3、男性の増加が特に目立つ;4、経済状況が一般以下;5、かつては他の宗教を信仰;6、家族単位の宗教信仰に嫌気を感じ、様々な宗教や教派を体験し、最終的にイスラームにたどり着いた;7、以前の生活でイスラームとのつながりはほとんどなかった;8、改宗は自己意志と個人単位;9、距離の遠近に関わらず、利用するモスクは愛群に限定;9、礼拝を重視する;10、聖典の学習にさほど熱心ではない;11、イスラーム団体による社会福祉活動への参加にも熱心ではない;12、中国内地の政府による言論統制とイスラーム弾圧に不満だが、特に関心がない;14、返還以降の社会経済格差と中国政府の香港支配に不満だが、政治運動にほぼ無関心。これらの特徴から、中国返還後の香港社会における若者の自己同一性の危機を強く感じたが、さらなら分析が必要とも感じる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は現地調査のデーターに頼る部分が大きく、昨年度の夏休みと春休み期間中の調査を予定していたが、昨年の3月から民主化デモが起こり、6月になって二百万人の大規模なデモが起こり、その後ますます激化した。デモに巻き込まれないために夏の調査を見送り、冬季に長い時間の調査を考えた。これも1月からのコロナウイルスのパンデミックの影響を受けて実現できなくなった。にもかかわらず、本研究はここまで来て、遂行する上で中国返還後の中共による香港支配が香港社会に齎し影響との関係性の究明が一層重要になったことが分かった。そのため、調査で得たデーターと文献の分析に集中しているが、計画から遅れているのは事実である。
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Strategy for Future Research Activity |
調査データーの分析と文献の研究を続き、今年度の12月と2月に調査を行い、4月までに研究報告書を完成する。
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Causes of Carryover |
香港民主化運動とそれに対する弾圧のため8月の調査を見送り、コロナウイルスのパンデミックによって2-3月の調査を見送った。 見送った調査を12-1月と2-3月において再び実施する。
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Remarks |
ともにネットメディア『端伝媒』(香港)の「深度評論」にて発表
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