2021 Fiscal Year Research-status Report
香港のイスラーム・ブームとムスリム社会の「周縁化」
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17K03282
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
王 柯 神戸大学, 国際文化学研究科, 客員教授 (80283852)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 香港 / イスラーム / 中国政府・中共政権 / 民主化運動 / 政治弾圧 / 一国二制度 / 消極的自由 / 自由からの逃走 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで数年間にわたって香港にてフィールドワークを通じて収集した香港のイスラーム社会に関係する基礎データ、現地史料・資料、研究対象者に対する直接観察、聞き取り調査とアンケート調査などに基づいて、香港イスラーム社会の特質と1997年の中国返還以降、国際都市だった香港に起こった中国系住民(漢人)によるイスラーム改宗を、「集団の大部分の成員の性格構造に共通する面」、つまり「社会的性格」と呼ぶことができる要素を摘出して改宗を誘発した要因を分析した。 この分析研究を通じて、一般的に中国系住民社会に敬遠された香港のイスラーム社会は自身のassociation化によって、信者の個性と自由を束縛せず、香港の現実社会にも干渉されづらく、現実社会から一定の距離と独立性を保つ聖なる空間となったことと、中国系市民によるイスラーム改宗は社会的政治的激しい変動時期における一部の香港市民、とくに若者の彷徨を反映し、吸収するものであったことを判明した。 社会的政治的激しい変動時期に、一部の香港市民、とくに若者の無力感、孤独感、不安感がさらに深まり、そのなかで、自分を香港の現実社会から隔離させるガード・ケーブルを作るため、イスラーム改宗を選んだという結論を得た。この研究成果は「『自由からの逃走』?――香港住民によるイスラーム改宗の社会心理」(『国際文化学研究』57号、神戸大学国際文化学研究科、2022年2月、85-120頁)にまとめた。 さらに、6月上梓を予定している共著『ハイテク専制国家中国』は、このような香港イスラーム改宗の背景となった香港の一国二制度の崩壊過程を説明している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
中国政府・中共政権による国家安全法の導入による一国二制度の崩壊と香港政治状況の悪化、さらに数回にわたる新型コロナウイルスの蔓延拡大によって、本来計画していた現地調査と資料収集は、2019年3月以降まったくできなくなり、現地の学者と調査対象となるムスリムたちとの連絡もできるだけ控えるようになった。そのため、新たな資料の入手が不可能となり、香港社会の現状と人々の現在の考え方を把握できなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
香港の民政長官選挙、中国共産党第20回大会開催の後の中国、とくに香港の政治情勢を見ながら、現地調査を再開し、その調査結果を生かして、周縁社会の視点から香港のイスラーム社会に起こった新たな動向を分析し、論文を執筆する。 いままでの研究成果を、研究報告書にまとめ、年度末に提出する。
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Causes of Carryover |
中国政府・中共政権による国家安全法の導入による一国二制度の崩壊と香港政治状況の悪化、さらに数回にわたる新型コロナウイルスの蔓延拡大によって、本来計画していた現地調査と資料収集は、2019年3月以降まったくできなくなった。2022年の香港の民政長官選挙、中国共産党第20回大会開催の後の中国、とくに香港の政治情勢を見ながら、現地調査を再開する。
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