2017 Fiscal Year Research-status Report
生理用品の受容によるケガレ観の変容に関する文化人類学的研究
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17K03284
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
新本 万里子 広島大学, 社会科学研究科, 研究員 (60634219)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 月経 / 生理用品 / 身体 / パプアニューギニア / アべラム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、生理用品に関する宣伝媒体についての資料収集と、東セピック州の農村部における調査を実施した。調査は、平成30年2月24日から3月18日の23日間に行われた。 宣伝媒体については、テレビCMが一つの宣伝媒体となっていることが分かった。しかし、実際には、テレビの普及している地域が都市部に限られ、都市住民はCMを見る機会があるが、農村部で生活する住民にとってはその機会が滅多にない。テレビCMによるイメージ戦略が女性たちの身体観に影響を及ぼしているとすれば、それは都市で起こっていると考えられた。農村部では、初潮を迎える時期の女性たちは、学校の授業で生理用品に関する情報を得るほか、姉、友人、母など身近な月経処置の経験者から情報を得ていた。 東セピック州では、学校で保健の授業を見学させていただき、女子生徒にアンケートも実施した。また、教師に、保健教育に使用する教材や資料、ナプキンの準備状況などについてのインタビューも行った。学校では、月経処置を学ぶ生徒の低学年化が起こっていた。農村部では、月経に対するローカルな信念がまだ息づいている。女性たちは、経血のついたモノに呪術をかけられると死んでしまうと考えている。この信念を、学校に通学する女生徒たちも共有しており、それが問題となるのは、使用済みのナプキンを捨てる場面であることが明らかとなった。 東セピック州の調査村における月経のケガレ観の変容については、日本文化人類学会の学会誌上で2018年6月に発表される。学校におけるアンケート調査の結果については分析を進め、学会発表、論文発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、第一に、生理用品に関する宣伝媒体についての資料収集・分析を行うことを計画した。第二に、農村部と都市部での調査を行うことを計画し、特に東セピック州での調査に焦点を当てることとした。 東セピック州での調査は、調査村での聞き取りを実施したばかりではなく、学校での教師への聞き取りや生徒へのアンケート調査も実施することができた。調査村での調査は、当初予定していた以上にスムーズに展開し、情報を得ている。現在、資料を分析して、学会発表、論文発表の準備を進めている。 一方、生理用品の供給側についての情報は、調査者が首都ポートモレスビーや州都ウェワクなどの都市部に滞在する時間が短いため、まだ十分に収集できたとはいえない。今後、都市部に住んでいる女性たちの協力を得て、調査を進めたいと考えている。 以上を踏まえて、おおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、生理用品を販売する会社のイメージ戦略と、宣伝がどのような変化を女性たちにもたらすのかを明らかにすることを一つの目的としている。CMが流布しようとしているイメージは、調査者がCMを見た限りにおいて、月経期間でも活動的に過ごすことができることをアピールしようとしているように見えた。 しかし、実際には、パプアニューギニアでCMをみることができるのは、テレビの普及している都市住民に限られている。CMをみている女性たちは、出身村を離れて都市部で暮らし、ナプキンを使用している。本研究は、当初、供給側の宣伝活動において、ローカルな月経観が問題となるのではないかと仮定したが、都市の女性たちがローカルな月経観を問題としているようには見えない。むしろ、彼女たちは、より良い使用感や快適さを求めて、CMを消費していると考えられる。 企業にとっては、農村部にテレビが普及していないということ自体が、イメージ戦略を展開する上での壁となっていると考えられる。また、企業のイメージ戦略が届かない農村部の女性たちにとっては、使用済みのナプキンを捨てる場面で、ローカルな月経観は問題となっている。 平成29年の調査結果を踏まえて、平成30年度は、生理用品の供給側へのインタビューを実施したい。供給側の宣伝の狙いや販売活動における困難を聞き取っていきたい。また、東セピック州では継続して補足調査を実施するが、東部高地州でも本調査を実施する。東部高地州でも、東セピック州の資料と比較しうるような資料を収集していきたい。これらの比較検討から、パプアニューギニアにおける月経のケガレ観の変容を考察していきたい。
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Causes of Carryover |
パソコンの他、パソコン関連機器などの購入のために物品費として40万円を見込んでいたが、パソコン関連機器の支出を抑えることができたため、その支出が294,756円に留まった。また、人件費・謝金に10万円を見込んでいたが、支出が64,540に留まった。生じた次年度使用額については、英文校正費として使用したいと考えている。
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