2023 Fiscal Year Annual Research Report
Anthropological study on the relationship between Hmong refugees and the state
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17K03297
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
中川 理 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (30402986)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | グローバリゼーション / 主権 / 難民 / 平等性 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度である本年度は、課題であったモンのトランスナショナルなネットワークに特に焦点を当てて調査を実施した。2023年7月19日から8月11日にかけてのフィールドワークでは、フランスのモン農民とラオスのモンの間の通婚関係および労使関係について、聞き取りと参与観察を実施した。それによって、モン農民は自らの自由と独立のためにラオスのモンを利用していると理解できるものの、実態はより複雑であり、むしろ相互に利用しあうと同時にケアしあう関係であることを解明した。また同調査において、同様の関係はモン農民と生産物であるズッキーニの間にも見出しうることを発見した。その成果は、2024年6月に開催の日本文化人類学会研究大会において発表する。 本研究計画全体を通して、「部分的アナキズム」と名付けることができる生活の一部の位相に関わる自律性を、フランスのモン農民が南フランスにおける農業実践を通して成り立たせていることを明らかにした。ただし、このような自律性が常に肯定的に捉えられるわけではないと示した点も、本研究の成果である。みんなが命令されることを嫌うがゆえに争い合う状況を嘆き、その状態を脱して一つにまとまろうとする動きは繰り返し現れる(生産者組合、メシアニズムなど)。したがって、ヒエラルキーへと平等性の間の揺れ動きとしてモン難民の社会をとらえることができる。本研究はまた、モン農民男性の自由と独立が、女性・労働者・自然を資源として利用することで成り立っていることを明確化した。ただし、これらの関係は一方的な支配と服従には収まらない相互的な利用の側面を持っている点も示した。さらに、自律性を維持するために、モンがトランスナショナルなネットワークを活用している点を、仏領ギアナへの移住の調査から明らかにした。これらの要素が相互に結びついていると民族誌を通して示したことが、本研究全体の成果である。
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