2019 Fiscal Year Research-status Report
北海道地方で特徴的かつ広域的に拡がった季節行事の生成と波及に関する研究
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17K03312
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
池田 貴夫 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (30300841)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 百人一首 / 板かるた / 節分 / 落花生 / 七夕 / ロウソクもらい / 観楓会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、冬の百人一首(「板かるた」あるいは「下の句かるた」の風習)、節分の落花生撒き、七夕のロウソクもらい、秋の観楓会などといった北海道で特徴的かつ広域的に拡がった季節行事を取り上げ、これまでの民俗学では踏み込めなかったそれらの生成と波及の力学について解明し、北海道の人びとが育んできた文化的ダイナミズムに迫る民俗論モデルを構築することを目的とする。令和元年度は、上記目的と単年度研究計画に基づき、特に以下の研究項目における研究を進展させた。 ①北海道において概ね明治後期から昭和期に製作された「板かるた」の翻刻作業を継続的に進め、北海道に「板かるた」が拡がるにあたり、その仮名遣いに東北方言がさまざまに反映されてきたことを示唆するデータが整いつつある。 ②北海道をはじめ節分に落花生を撒くようになった文化変化の現象を全国的な視野から把握するため、鹿児島県奄美大島および沖縄県沖縄本島において節分の時期に合わせた現地調査を行った。その結果、奄美大島においては、現在においては落花生が相当量撒かれるようになっていること、大豆から落花生への変化は概ね昭和の終わり頃から平成期にかけて浸透していったことを示唆するデータが蓄積された。一方、沖縄本島においては、子供の少ない集落などにおいては現在においても豆撒き自体が不振であること、また現在豆撒きを行う都市部や学校などにおいても、ムーチーなどとの関係もあり豆撒き自体が浸透していったのは概ね昭和の終わり頃から平成期にかけてであったこと、さらには現在においても節分豆としての落花生の浸透は不振であり、むしろ「焼き大豆」などが好んで使用されていることを示唆するデータが蓄積された。 ③新聞紙面や招待講演の場を介して、民俗学研究者のみならず、専門を異にする研究者、異業種の方々、学生、一般市民など、多様な層に対し、最新の研究成果を公表・発信するよう努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、冬の百人一首(「板かるた」あるいは「下の句かるた」の風習)については、北海道博物館に所蔵されている実物資料10件および個人所有資料7件について書かれた和歌の翻刻作業を進め、北海道の「板かるた」の拡がりのあり方を東北方言との関係で明らかにしていくためのデータベースが構築されてきている。また節分の落花生撒きについても、全国を対象に展開している現地調査により有効なデータが着実に蓄積されつつあり、それらを通時的・共時的に分析することにより「大豆から落花生へ」の変化の力学を多面的に描き、そのなかに北海道での現象をどう位置づけるかを考察できる段階に迫ってきていると考えている。一方、七夕のロウソクもらい、秋の観楓会については、文献、新聞、日記類の調査による新たな記録の発掘に必須であり、遅れ気味ではあるが一定程度の新たなデータが蓄積されつつある。これらのデータは適切に整理・管理され、分析に供されている。また、最新の研究成果の一部は新聞紙面や招待講演の場などで公表・発信することができている。 一方で、研究全体をとおして、文献、新聞、日記類の調査については、想定している調査対象の全体量に比してやや遅れ気味と言わざるを得ない。また、令和元年度は本研究の研究期間の中間年にあたり日本民俗学会や日本民具学会などで最新の研究成果を発表し批評を仰ぐことが必要と認識していたが、実現に至らなかったことは反省すべき点と考えている。 しかしながら、5年計画の中間年において着実にデータを収集・整理・管理できており、また研究項目によっては顕著な進展が認められる本研究の進捗状況を総合的に勘案し、概ね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
①今後は、研究全体をとおして遅れ気味である文献、新聞、日記類の調査を優先して進め、継続して基礎的データの収集・整理・管理に努め、分析・考察の幅を増やしていくものとする。 ②「板かるた」は元々福島県会津地方で作られ使用されていたことから、会津の人びとが北海道に持ち込んだものと考えられているが、それらが会津以外の地域から北海道に移住した人びとの間でどのようにして受け入れられていったのか、その波及の力学は依然明らかになってはいない。一方で、古い手書きの「板かるた」に書かれた百人一首に会津方言が認められることは他の研究者により既に指摘されてきた。そこで、研究代表者は、現在、北海道において概ね明治後期から昭和期に製作された「板かるた」の翻刻作業を継続し、北海道の「板かるた」の拡がりのあり方を東北方言との関係で明らかにしていくことを目指している。近年、すでに「板かるた」による百人一首が廃れてしまった会津地方においても、かつての「板かるた」の実物が複数現存していることが明らかとなっており、今後は、このような会津地方で製作・使用された「板かるた」の記録・翻刻に取りかかるとともに、北海道の「板かるた」の現在形である任天堂や大石天狗堂の「板かるた」についても翻刻を進めることにより、共時的・通時的比較の幅を拡げ、北海道における「板かるた」の特徴をより鮮明化させていく。 ③節分の落花生撒きという現象を考えるうえで、今年度、鹿児島県奄美大島と沖縄県沖縄本島での調査は、両島の間に線を引けるほどの大きな差異が認められるなど、非常に有効であった。その理由としては、調査を節分の時期に合わせて行ったため、単なる聞き取り調査に比して、得られる情報量が多く、その信頼性も高かったことがあげられる。したがって、今後も節分の時期に合わせた調査を重視していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、当初予定していた北海道内の図書館等における文献、新聞、日記類の調査、嵯峨嵐山文華館および東洋大学附属図書館における百人一首の調査、さらには臨時研究補助員の雇用を見送らざるを得なかったことにより生じたものである。したがって、令和2年度請求額については令和2年度研究計画に沿って使用するものとし、次年度使用額については、北海道内の図書館等における文献、新聞、日記類の調査、嵯峨嵐山文華館および東洋大学附属図書館における百人一首の調査、さらには臨時研究補助員の雇用により、使用していく計画である。
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Research Products
(16 results)