2017 Fiscal Year Research-status Report
日本統治時期台湾における司法を通じた慣習批判と台湾社会の抵抗
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17K03327
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
後藤 武秀 東洋大学, 法学部, 教授 (90186891)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 一夫多妻制度 / 妾 / 族譜 / 旧慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
台湾における族譜の調査を行い、その中から複数の配偶者を擁している記録を抽出し、一夫多妻の実態を確認する作業を行い、日本統治時代の進展に伴ってその慣習がいつごろから減少していくかを確認する作業を進めた。この作業の意味は、本研究課題の中核を為す司法判断の社会への影響という観点から、一夫多妻制度に批判的な見解を提示してきた裁判所の見解が、社会にどのように浸透していったか、換言すれば司法判断が台湾社会の慣習をどのように改変していったかを確認することにある。本年度は、主として夏期休暇、春期休暇を利用して台湾北部の祭祀公業「陳悦記」族譜、台湾南部の安平高氏族譜、台湾東部の宜蘭陳氏族譜の調査を終えることができた。いずれも台北市近郊の国立台湾図書館に所蔵されている資料を利用した。膨大な量が残されている族譜のごく一部ではあるが、台湾の代表的な地域を対象として比較的まとまった形で残されている資料であることから、これらを調査対象とした。分析を終えたのは「陳悦記」の族譜であり、その結果は、論文として発表した。分析方法としては、複数の配偶者が記録されている記事を基に2番目の配偶者が後妻であるか、妾であるかを確認するために夫の死亡後も複数の配偶者が生存しているかどうかを確認することとした。夫の死亡後も複数の配偶者が生存していれば、一方は妾であると考えられるからである。このような手法により、族譜の中から複数の配偶者が生存している41件の事例を抽出して、1900年頃から複数の配偶者の記録が少なくなり、妾の存在も少なくなっていくことを確認した。日本統治の進展に伴い、司法の判断してきた一夫多妻制は好ましいものではないという判断が、社会にも浸透しつつあったことを確認することができた。日本統治下において保護されたはずの旧慣ト呼ばれた慣習の1つである妾制度が、実際には減少しつつあったということができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、国立台湾図書館に架蔵されている台湾各地の族譜を調査し、その中から複数の配偶者を記録している記事を抽出し、分析することを主課題とした。族譜の中には、複数の配偶者を記録していてもその生没年を記録しないものも多数あり、いずれの族譜を主要な研究対象とするかの決定に調査時間の多くをさいた。幸い、「陳悦記」などの族譜に相当詳細な記録が残されているので、これを利用して論文を書くことができた。その意味で、本年度の調査、分析はおおむね順調に進捗したと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第2年度以降、次のように研究を進めていく。第1は、既に採集を終えた族譜である安平高氏族譜及び宜蘭陳氏族譜の分析を進めることである。第1年度に分析した「陳悦記」族譜は台湾北部のものであるのに対し、高氏は台湾南部、陳氏は台湾東部の一族の記録であることから、司法判断が台湾の各地域にどのように浸透しているかを比較検討する上で恰好の素材となり得るからである。第2は、従前と同様に国立台湾図書館において既に採集したもの以外の族譜を調査収集し、分析することである。なお、台湾の様々な一族の族譜は、一族の源流が中国大陸福建省、広東省にあるものが大半であり、その収集は広東省広州図書館など中国大陸の研究機関、資料館においても進められている。一夫多妻制度が族譜にどのように反映されているかを確認する上で、台湾の族譜では削除されている記録が中国大陸の族譜で残されていることもあるので、必要に応じ、両者の比較検討も作業として行う。第3に、これらの作業と並行しつつ基本課題である、日本統治の進展に伴って、司法判断が台湾社会に浸透したか否か、旧慣保護という原則が変化していったのかどうかを判断するための基礎作業としての論文を作成していく。なお、資料の多くが台湾、中国大陸に残されている関係上、夏期休暇等を利用して出張調査を進める。
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