2018 Fiscal Year Research-status Report
民主的決定の外部にいる存在を包摂する政治的責務論の構築
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17K03329
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
瀧川 裕英 立教大学, 法学部, 教授 (50251434)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 政治的責務 / 権威 / 政治的権威 / 政治的正統性 / 民主的決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、民主的決定は権威を持つか、持つとすればその根拠は何かという問いを、理論的に検討し解明することにより、民主的決定のいわば外部にいる存在、具体的には外国人・未成年者・受刑者などを視野に入れた政治的責務の正当化論を構築することである。この目的を達成するため、平成30年度は、二つの作業を行った。 第一に、権威概念の分析を進めた。そのためにまずは、現在影響力のあるラズの権威論を検討した。ラズの権威論はその難解さで知られるが、権威論の出発点に位置する「権威のパラドックス」を明確化することで、ラズの権威論の意義を明確化することを試みた。それのみならず、ラズの権威論を相対化するために、多様な権威論を検討した。それにより、ラズの権威論の限界を明確化した。さらに、ラズの権威論を権威の合理化プロジェクトとして理解し、このような理解がもつ理論的含意について、多角的に検討した。特に、権威のパラドックスを解消するために、権威はどのような条件を充たさなければならないか、という権威の正当化問題について検討を進めた。 第二に、権威概念の分析に基づいて、民主的権威について検討を進めた。民主的決定が正統な権威を持つ根拠として、その認識価値を強調する「認識のデモクラシー」論が、昨今有力に主張され始めている。この認識のデモクラシー論について、その議論の構造を検討した。特に、権威の正当化問題との関連で、認識のデモクラシー論をどのように位置付けることができるのかについて、検討を進めた。 関連して、デモクラシーの境界問題、つまり民主的権威が正統性をもつ領域がどこまで及ぶのかという問題について、検討した。特に、国家間分業の意義、その実現可能性に着目して、検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において、二つの研究作業を行い、その成果報告を行うことを予定していた。 研究作業予定の第一は、権威概念の分析である。これについては、ジョセフ・ラズの権威論を中心としてその検討を進めた。「国家は権威を持つ」といわれるときの権威の概念は、正統性、責務、命令、正当化など関連する概念との関係が明確でなく、その理論的検討はかなり困難であったが、複雑な内容を持つ権威概念を、権威の問題を明確化しつつ議論を構造化し相対化することで、一定の見通しを与える権威理解を獲得することができた。「権威は具体化する」という標語で表すことのできる権威理解は、政治的権威の分析にとっても有効だという手応えを感じている。 研究作業予定の第二は、民主的権威の根拠に関する検討である。民主的決定がなぜ権威を持つかは、従来争われてきた。今年度は、主として、民主的権威の根拠を認識価値に求める認識のデモクラシー論の検討を進め、その議論の構造を明確化した。それと同時に、権威概念と関連させることで、民主的決定が正統な権威であるために充たすべき条件についても検討した。関連する成果の一部を、平成30年7月に京都で開催された第1回IVR Japan国際会議で報告した。 以上のように、研究計画における予定を順調に達成することができた。特に、平成30年9月からは、オックスフォード大学(イギリス)において長期在外研究をする機会を得たので、最新の理論動向を把握する一方で、本研究の国際的文脈をも確認しつつ、研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度および平成30年度は研究計画に従って、順調に研究を推進することが可能であった。そのため、最終年度となる平成31年度も、研究計画に従って研究を推進していくことにする。具体的には以下の通りである。 第一に、民主的決定の外部にいる存在を視野に入れた政治的責務の正当化論を構築する。民主的決定は正統な権威を持つと、一般に考えられている。だが、民主的決定手続に参与できない者、具体的には外国人や未成年者や受刑者に対しても、民主的決定が正統な権威を持ちうるかが問題となる。これは、理論的問題であるだけではなく、移民政策、将来世代への責任、受刑者の参政権など重要な実践的問題でもある。過去二年の研究で得られた成果に基づいて、つまり権威の正統性の根拠や民主的権威の根拠についての研究成果に基づいて、この民主的決定の外部に関わる問題を検討していく。 第二に、過去2年の権威の分析、民主的権威の根拠の検討について、更なる理論的進化を図りながら、本研究の成果全体をまとめ、公表することに尽力する。平成31年7月にルツェルン(スイス)で開催される第29 回IVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)世界大会において、民主的権威をテーマとするスペシャル・ワークショップを主催することが決定している。そこにおいて、成果を報告しつつ内外の研究者と連携して、研究を進展させていく。また、権威の理論について過去二年の研究で書きためた研究成果が蓄積されてきたので、論文として公表していく。
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Research Products
(5 results)