2017 Fiscal Year Research-status Report
On the Anglo-American Tradition of Rule of Law-Suggestions for the Japanese Legal System
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17K03332
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
戒能 通弘 同志社大学, 法学部, 教授 (40388038)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 法の支配 / コモン・ロー / 法実証主義 / 共和主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、英米の法の支配の歴史、思想史を包括的に再検討し、現代的な観点も含め、わが国の法の支配、立憲主義の研究に厚みを加えることを目的としている。平成29年度は、英米の法の支配伝統を総体的に検討することを試みた。まず、6月に比較法学会総会のミニシンポジウムで、「法の支配のヒストリー」という論題で報告した。そこでは、編集中の編著(後述)に寄稿いただた若手の4名の方々に、ダイシー、ケントとストーリー、アメリカの歴史法学、リアリズム法学における法の支配の議論について報告いただき、申請者も、ホッブズと法の支配について報告し、クック、ベンサムについての最近の研究動向を紹介している。また、7月にリスボンで開催された法哲学・社会哲学国際学会連合(IVR)の世界大会にて、IVR Encyclopedia of the Philosophy of Law and Social Philosophy(Springer, 2018予定)に寄稿した、イギリスでは、クックからダイシーまで、アメリカでは、マーシャルからホームズまでを扱っている「Rule of Law: Historical (Theoretical) Perspectives」という論稿を基に、報告した。さらに3月には、以上のミニシンポジウムでの報告者間の議論や国際学会での質疑などから得た知見も踏まえつつ、『法の支配のヒストリー』(ナカニシヤ出版、2018年)という編著を公刊している。比較法学会総会のミニシンポジウムで報告いただいた4名の方の論稿と、マーシャルについてのもう1人の若手の研究者の方の論稿、イギリス、アメリカを代表するコモン・ロー研究者のロバーン教授、ポステマ教授の、各々クックとベンサムの論稿の翻訳、それから自身によるホッブズ、ブラックストーンについての論稿を収め、英米の法の支配の伝統全体を扱ったものになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年6月の、比較法学会総会のミニシンポジウムでの報告、7月の、リスボンで開催された法哲学・社会哲学国際学会連合(IVR)の世界大会での報告、さらには2018年3月刊行の『法の支配のヒストリー』(ナカニシヤ出版、2018年)という編著の編集作業などを通じて、従来の研究では明白には示されていなかった論点の抽出も含めて、英米の法の支配伝統を、ある程度、総体的、網羅的に検討できたと考えている。具体的には、上述の編著においては、まず、イギリスの法の支配の伝統に関しては、ロバーン氏のクックに関する研究に基づき、国王大権と法の支配の緊張関係や後者の限界を示し、さらには、自身のブラックストーンに関する研究により、裁判官の独立が法的に保障されることで、国王大権への法の支配が完成した様を描けたと考えている。また、ポステマ氏のベンサムについての研究を翻訳するとともに、ダイシーについての若手の方の研究も収めているが、編集の過程で、ベンサムとダイシーに共通する要素を示していただくよう心がけた。その結果、従来あまり指摘されていなかったイギリスの法実証主義的な法の支配伝統の特徴を明らかにすることが可能になったと考えている。立法、行政の「人の支配」を世論(ベンサム)、習律(ダイシー)によってコントロールするという「間接的な法の支配」の伝統である。一方、アメリカの法の支配の伝統に関しても、19世紀前半のマーシャルの法の支配論を19世紀半ばのケント、ストーリーがどのように継承したのか、また、19世紀後半のコモン・ローに基づく歴史法学の法の支配論と20世紀前半のニューディール期以降の法の支配論の違いといった通史的な検討を行うことができた。その結果、法的主権(議会)と政治的主権(国民)との関係、法の道具化といった、英米の法の支配の現代的な論点を法思想史に基づいて検討することが可能になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度からは、英米の法の支配それぞれに関して、現代日本とも関連する論点をより深く検討したい。本年度は、その内、イギリスの法実証主義伝統における間接的な法の支配論について、特にベンサムに焦点を当てて、研究を進める予定である。まず、7月上旬に、IVR日本支部主催の国際学会が、勤務校である同志社大学で開催される。申請者も同日本支部の運営委員であるが、その国際学会の統一テーマの1つが法の支配(rule of law)である。そこで、ベンサムと法の支配というテーマで報告するとともに、中国のマカオ大学のXiaobo Zhai氏、フランスのリール・カトリック大学のMalik Bozzo-Rey氏を招へいして、それぞれ、「Bentham and Postema on the Rule of Law: a Comparison」、「Bentham and Managing Public Servants: Utility, Transparency and the Rule of Law」というテーマで報告してもらう予定である。Zhai氏の報告では、ベンサムの法の支配論の現代的な意義を、また、Bozzo-Rey氏の報告では、ベンサムの世論を軸とする権力のコントロールの方法のより詳細な姿を明らかにしていただけると考えている。また、7月下旬の、ドイツのカールスルーエで開催される国際功利主義学会では、ポステマ氏の新著についてのミニシンポジウムで、「Bentham’s Theories of the Rule of law and the Universal Interest」というタイトルで報告して、ベンサム流の間接的な法の支配が作動するための条件について検討したい。なお、11月の法哲学会では、統一テーマと関連させ、「法多元主義と近代アメリカ法、法思想」というテーマのワークショップを主宰する。
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Causes of Carryover |
平成29年度には資料等を整理するためのパーソナル・コンピューターや現代の英米の憲法学の著書などを購入することを予定していたが、編著の編集作業、上述の編著に寄稿された論稿で示された論点の整理など、英米の法の支配伝統の包括的な検討に、作業が集中していた。その結果として、現代の英米の憲法学の著書などの購入は、次年度以降に、再度、選定、実施することにした。また、資料の整理のためのパーソナル・コンピューターも、例えば、ベンサムの未発表の論稿を整理する作業にも取り掛かる予定である次年度に購入したいと考えている。
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Research Products
(7 results)