2017 Fiscal Year Research-status Report
フランスにおける宗教的着衣規制と「公序」の抽象化に関する研究
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17K03344
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中島 宏 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90507617)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 信教の自由 / 公序 / ブルキニ規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、フランスにおける近年の宗教的着衣規制の論理を確認しつつ、新たな規制の試みであるブルキニ規制の内容を検討した。研究実施計画においては、公序概念の基本原理を研究することを予定していたが、ブルキニ規制という具体的事件を通して、伝統的な公序概念を確認する結果となった。 ブルカ禁止法については、フランス憲法院が合憲判断を下し、さらに欧州人権裁判所が条約適合判決を下した。欧州人権裁判所の判断を再検討し、そのポイントを確認した。すなわち、ブルカ規制の目的を限定し、安全面からの規制正当化を否定したのである。判例上、ブルカ禁止法を正当化できるのは、「共生」という価値のみに限定されたのである。 また、2016年のニース・テロ事件以降、海水浴場において「ブルキニ」と呼ばれるムスリム女性のための水着の着用を禁止する自治体が急増した。行政命令による着用禁止であり、その正当化根拠として主にライシテ遵守、善良な風俗、公衆衛生、安全の確保が挙げられていた。しかし、コンセイユ・デタは、伝統的な公序概念の観点から「ブルキニ」禁止命令を違法と判断した。「ブルキニ」の着用によって「公序を侵害するおそれが生じたとは認められない」し、衛生面からしても問題ないとしたのである。しかしながら、行政命令ではなく、新たな立法によって禁止を正当化する余地はあるとの指摘があることにも留意が必要であろう。 以上のような内容を論文2本にまとめて公表した。うち1本は海外でのシンポジウムにおける報告を英語でまとめたものである。また、日本における政教分離について仏語で口頭報告を行った。加えて、フランスにおいて憲法院の裁判官にインタビューを行う機会にも恵まれ、その中でブルカ規制について質問することができた。その内容は非常に参考になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に示した通り、初年度の研究実施計画において予定していた公序概念の確認については、概ね行うことができたのではないかと思われる。しかし、事件に関連する限りでの確認であり、より本格的な検討を加える必要性を感じた。 また、ブルカ禁止法に関する欧州人権裁判所の判断の検討も、ブルキニ規制に関する研究の過程で行うことができた。欧州人権裁判所の正当化論証を改めて確認し、フランス憲法院の判断との異同を見出すことができた。 今年度の研究活動を通じて、公序概念の本格的な検討や判例における規制の正当化論理を検証することができた。この点で、研究はおおむね順調に進展しているのではないかと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に予定した通り、フランスにおける公序概念に関する研究業績を参照しつつ、その内容と変化を研究したい。特に伝統的な要素と、近年新たに付加された抽象的な要素に関する学説の評価を検討したい。この点、公序に関する研究業績が単著として出版されており、その読解が主要な研究推進の方策の一つとなる。 また、可能な限り、今年度も現地調査を行うことによって、公序概念に関する近年の議論の特徴を把握したいと考えている。宗教的着衣規制については、欧州各国に広がる傾向が見られる。この点にも留意しつつ、研究を進めていきたい。
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Research Products
(3 results)