2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K03347
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
斎藤 誠 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00186959)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国際基準 / 国際行政法 / 越境環境紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
今期は、「国際的な基準」の判例への作用につき、(1)国際経済法・国際環境法の判例を素材に分析を進めることができた。特に、ドイツにおけるメンツェルの研究での言及から、いわば学説においては忘れられた古典的素材としての、エムスランド原発事件につき、手続法・訴訟法両面での、国際基準の意味、近時の判例との関係につき考察を進めた。同事件では、ドイツとの国境に位置するオランダの自治体に居住するオランダ国民が、ドイツの行政裁判所において、原発に付与された原子力法上の認可を争うことができるか否かが争点となり、連邦行政裁判所判決判決はこれを肯定した。同事件における属地主義の扱い方や、国際法上の領域管理責任の国内法への作用のあり方は、その後の、越境国際環境紛争にかかる訴訟判決にも一定の影響を与えており、本研究のとりまとめにあたっては、近時の関連判例も含めて位置付ける方向で検討を進めている。 (2)学説の動向についても、上記の近時越境国際環境紛争を対象としたドイツの学説や、国内法解釈における国際法の作用のありかたに関する日本の近時の研究を素材に検討を進めた。特に、国際法の間接適用概念の見直しを進める学説が進捗したことによって、本研究研究代表者が、かねてより主張し、本研究においてもその基礎としてきたところでもある、効力論と適用論の峻別、そして国内実定法解釈における国際的基準の作用のあり方の類型化が、妥当性をもって通用することが確認できたと考える。(1)における国内実定法の解釈において、行政訴訟法という一般法と、保護法益の根拠となる個別法それぞれと、国際基準の関係を立体的に構成する必要性についても手掛かりが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際的な基準の判例における位置づけの分析と新たな理論モデルの提示にむけて、国際経済法、国際環境法における各論的な素材も含め、考察を進めることができた。なかでも、ドイツにおける、いわば忘れられた古典的素材としての、エムスランド原発事件につき、手続法・訴訟法両面での国際基準の意味、属地主義との関係、そして近時の判例における展開との関係につき学説も含め、分析を加えることで、各論と総論の関係も含め、研究とりまとめにむけて、新たな地歩を得ることができた。 また、国際租税法の分野についても、OECDの諸基準の位置づけに関する議論を歴史的に跡付けることにより、一般的な理論モデル提示にむけての各論的基礎を広げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
期間延長を認められた今年度は、日本に妥当する、行政判例における国際的な基準の作用についての新たな理論モデルの提示を行うために、以下の作業により研究を取りまとめる。 (1)ドイツを対象に、近時の越境環境紛争判例と学説の対応の分析を、昨年度の研究から引き続いて行い、日本との比較の視点での考察を深める。(2)国際租税法分野については、国際的な基準の作用のあり方につき、昨年度に行った歴史的視点での検討につづき、現在の理論・実務の動向に即した分析を行う。(3)昨年度までの各論的検討(国際経済法、国際環境法、国際エネルギー法)に、上記(1)(2)で得られる知見を加え、分野横断的な要素と、分野固有の要素をそれぞれ抽出し、理論モデルの形成を図る。
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Causes of Carryover |
今期の研究においては、国際経済法、国際環境法を中心に国際的基準の作用について、文献研究等を進捗させたが、そのなかで、エムスランド事件といういわば忘れられた素材を発掘し、近時の研究との関係も含め考察することでより密度の高い研究を進めることができた。 その反面、当初予定していた国際租税法における国際的基準の作用についての文献研究調査等が手薄になり、次年度使用額が生じた。しかし、この部分については、当該分野での追加的文献収集等と、理論モデル提示にかかる諸経費に充当する翌年度請求分と並行して使用する計画であり、これにより研究をとりまとめることに資することが十分に可能である。
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Research Products
(1 results)