2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K03347
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
斎藤 誠 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00186959)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際基準 / 国際行政法 / 越境環境紛争 / バイオテクノロジー法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今期は、「国際的な基準」の判例への作用につき、(1)前期に引き続き、国際経済法・国際環境法の判例を素材に分析を進めた。前期にいわば「発掘し」考察を進めたエムスランド原発事件から展開して、同判決後の国際越境環境紛争に関する複数の事案(国境付近に設置された空港をめぐる紛争等)について、事案を直接規律する二国間条約の有無等の差異にも着目しつつ分析を行った。エムスランド原発事件は行政訴訟であったが、今期は、施設設置国および近隣国の国内裁判所に提起された民事訴訟の取り扱いについても対象とした。国内施設であれば、民事訴訟を排除し行政訴訟に一本化するシステムがある場合、それが国外施設にどのように適用されるのか、条約による規律の意義を中心に検討し、この論点にも密接に関連する外国判決の執行についての公序条項の適用の問題も掘り下げた。 (2)前期の実施報告書「8.今後の研究の推進方策」で記した、国際租税法分野における分析については、今般のコロナ禍により、新規資料の収集など研究の進行が困難になった。そこで、研究代表者が既に研究を行ってきた、EUバイオテクノロジー法分野につき、EU指令の国内裁判における作用の観点を中心に、新たな動向についての知見を加えて研究を集成し、単著『バイオテクノロジーの法規整』を刊行することができた。(1)における研究とあわせ、国内実定法の解釈における国際基準の作用のあり方を、分野横断的かつ立体的に理論構成することにつき歩をすすめたものである。したがって、次期に可能な範囲で他分野も含め補充的な資料収集を行って研究をとりまとめることに向けて、具体的目途を今期において立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際的な基準の判例における位置づけの分析をふまえた新たな理論モデルの提示にむけて、前期に引き続き、国際経済法、国際環境法における各論的な素材も含め、考察を進めることができた。前期に考察したエムスランド原発事件に関連した諸判例につき検討を深めることで、二国間条約がある場合とない場合における、国際諸基準の作用の在り方のモデル提示の具体的手がかりを得ることができた。また資料収集等が困難となった国際租税法分野に代えて、バイオテクノロジー分野におけるEU指令の国内法および国内裁判所における拘束性を具体的に検討することで、国際基準の作用のあり方を、分野横断的かつ立体的に理論構成することに向けて歩をすすめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍のため再度の期間延長を認められた今年度は、日本に妥当する、行政判例における国際的な基準の作用についての新たな理論モデルの提示を行うために、以下の作業により研究を取りまとめる。 (1)ドイツを主な対象に、越境環境紛争判例と学説による対応の分析を、手続法・訴訟法・実体法の三面にわたってとりまとめ、日本との総括的比較を行う。(2)国際租税法分野については、国際的な基準の作用のあり方につき、一昨年度に行った歴史的視点での検討につづき、現在の理論・実務の動向に即した分析を行う。(3)昨年度までの各論的検討(国際経済法、国際環境法、国際エネルギー法、バイオテクノロジー法)に、上記(1)(2)で得られる知見を加え、分野横断的な要素と、分野固有の要素をそれぞれ抽出し、理論モデルを提示する。
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Causes of Carryover |
今期の研究においては、国際環境法、バイオテクノロジー法を中心に国際的基準の作用について、文献研究等を進捗させた。エムスランド事件に続く越境環境紛争事例を精査し、二国間条約との関係も含め考察することでより密度の高い研究を進めることができた。 しかし、当初予定していた国際租税法における国際的基準の作用についての文献研究調査等が、コロナ禍の影響で困難になったことから、次年度使用額が生じた。しかし、この点については、今年度、当該分野での追加的文献収集のための経費と、他分野の文献研究調査等及び理論モデル提示にかかる諸経費に充当する次年度請求分とを並行して使用する計画であり、これにより研究をとりまとめることに資することが十分に可能である。
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