2021 Fiscal Year Research-status Report
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17K03347
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
斎藤 誠 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (00186959)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国際基準 / 国際行政法 / 越境環境紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
今期は、「国際的な基準」の判例への作用につき、第一に、前期に引き続き、国際経済法・国際環境法の判例を素材に分析を進めた。前期の研究実績の概要にて示した、エムスランド事件を端緒とする考察については、当該事件判決の近時の空港騒音紛争事件における影響や、学説の諸相もふくめその成果を公表することができた。引き続き、空港越境騒音紛争についての民事訴訟としてのザルツブルク空港事件を分析の対象として、訴訟ルートを設定する二国間条約の意義やその限界について考察し、この論点にも密接に関連する外国判決の執行についての公序条項の適用の問題もさらに掘り下げ た。 第二に、前期の実施報告書「8.今後の研究の推進方策」で記した、国際租税法分野における分析については、コロナ禍が続いたことにより、新規資料の収集など研究の進行は引き続き困難を伴ったが、既存の資料により、ある程度のめどをつけることができた。あわせて、国際経済法分野に関しては、ドイツにおける『日本の経済法』の第2版企画において「経済行政法」の項が新設されることにともない、そのとりまとめの責任者になるとともに、グローバル化のもとでの経済行政法の項を執筆し、国際的な基準の経済行政法判例への作用につき、前期までの考察を集成することができた(令和4年度に刊行予定)。 あわせて、公衆衛生分野におけるグローバル化の正負の影響について、行政法の歴史と理論の観点から、コロナ禍以前の疫病対応史を対象に考察を加えた研究を公表することができた。 以上により、期間延長が認められた令和4年度でのとりまとめに向けて、その基盤は確保できたものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際的な基準の判例における位置づけの分析をふまえた新たな理論モデルの提示にむけて、前期に引き続き、国際経済法、国際環境法における各論的な素材も含 め、考察を進めることができた。前期に考察を進めたエムスランド原発事件については、関連判例及び学説との対応関係につき補充した成果を公表することができた。また、越境環境紛争が民事訴訟として提起された場合の、二国間条約の作用のあり方について、ザルツブルク空港事件を素材とする考察を進め、国際諸基準の作用の在り方のモデル提示にむけ、具体的類型化を進めることができた。 国際租税法分野についても、コロナ禍での制約条件のもとで、一定の資料分析を行うことができ、国際経済法分野についても、前期までの分析を集成する論考を執筆することができた。以上により、国際基準の作用のあり方を、分野横断的かつ立体的に理論構成しとりまとめることに向けて前期からさらに進捗を見たものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍のため、再々度の期間延長を認められた令和4年度は、日本に妥当する、行政判例における国際的な基準の作用についての新たな理論モデルの提示を行うため に、以下の作業により研究を取りまとめる。 (1)前期までに、判例と学説の分析につき一定の成果を得た、ドイツを中心とする越境環境紛争については、手続法・訴訟法・実体法の三面につき、日本との総括的比較を行う。 (2)国際租税法分野については、国際的な基準の作用のあり方につき、現在の理論・実務の動向に即した分析 を進める。 (3)昨年度までの各論的検討(国際経済法、国際環境法、国際エネルギー法、バイオテクノロジー法)に、上記(1)(2)で得られる知見を加え、 分野横断的な要素と、分野固有の要素をそれぞれ抽出し、理論モデルを提示する。
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Causes of Carryover |
今期の研究においては、国際環境法、国際経済法を中心に国際的基準の作用について、文献研究等を進捗させた。エムスランド事件に関する考察の成果を公表し、類似の紛争を対象とした、民事訴訟における国際基準の作用についても精査し、二国間条約との関係も含め考察し、あわせて、国際経済法分野でのこれまでの考察を集成することでより密度の高い研究を進めることができた。 しかし、国際租税法における国際的基準の作用についての文献研究調査等が、コロナ禍の影響が続いていることで、引き続き一定の困難を抱えているため、次年度使用額が生じ た。この点については、当該分野での追加的文献収集のための経費と、他分野の文献研究調査等及び理論モデル提示にかかる諸経費に充当する 次年度請求分とを並行して使用する計画であり、これにより研究をとりまとめることに資することが十分に可能である。
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Research Products
(2 results)