2017 Fiscal Year Research-status Report
著作者の権利に基づく出版物の事前差止めと表現の自由
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17K03358
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
大日方 信春 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 教授 (40325139)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 表現の自由 / 知的財産権 / 著作権 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の前半は、年来の大テーマ「知的財産権と表現の自由」における採択テーマ「著作者の権利に基づく出版物の事前差止めと表現の自由」の位置づけについて、再検討した。その成果は、阪口正二郎=毛利透=愛敬浩二編『なぜ表現の自由か:理論的視座と現況への問い』(法律文化社、2017年)に「第10章 知的財産権と表現の自由」として収録されている。そこでは、表現の自由に対する規制態様として伝統的に事前規制について憲法理論は警戒的であったことを著作権に基づく事前規制との関係でどのように検討していくべきかについてふれている。 後半は、わが国における「著作権に基づく表現物の事前差止め」を検討するにあたり関連すると思われる裁判例、研究論文等について渉猟した。同テーマについては、近年のいわゆる「著作権法判例百選事件」の登場を契機として、検討されはじめてきている。ここでは、同裁判例に先立つ「ウォール・ストリート・ジャーナル事件」、「『剣と寒紅』事件」も含めて、憲法学者による論説を中心に分析した。 また、本研究のもとになっている、アメリカにおける表現の事前規制形態である「暫定的差止命令(preliminary injunction)」に関する法理論も確認している。そのさいには、定評ある Michael W. Shiver, Jr.や Mark A. Lemley と Eugene Volokh の論文も利用している。 わが国については「北方ジャーナル事件」があるので、同判例と「著作者の権利(著作財産権、著作者人格権)に基づく表現物の事前差止め」との問題の異同を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年来の大テーマ「知的財産権と表現の自由」における採択テーマの位置づけを再検討できたことは一定の成果かといえる。これは、研究代表者の過去の2つの科研費研究(基盤(C)22530034及び同25380042)の成果とともに1冊の研究書とする一里塚であると思われる。なお、研究書の出版については、出版社との交渉が成立している。
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Strategy for Future Research Activity |
表現の自由に対する事前抑制は、その言論抑圧効果、萎縮効果等を理由として、アメリカでも警戒されてきた国家行為である。したがって、平成30年度は、アメリカにおける表現行為の事前抑制の法理について文献研究をする予定である。 ただ、彼の国におけるこのテーマの研究業績は、枚挙に暇がないほど存在する。そこで、そのなかでもとくに「著作権に基づく事前抑制の法理」に関する文研を抽出して、研究推進の方向性を見誤らないようにする。
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Causes of Carryover |
発注済み洋書の発行が送れたため。
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