2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける映画をめぐる文化現象と憲法:映画検閲から文化芸術助成まで
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17K03367
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
志田 陽子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (20328941)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 表現の自由 / メディア表現 / 映画検閲 / ジェンダー / 法の下の平等 / 芸術文化政策 / レッド・パージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、芸術法学と憲法上の「表現の自由」とが交差する一場面として、アメリカにおける映画への国家干渉について研究調査を行うものである。アメリカでは、映画への統制的関心が、形を変えながら続いてきた(1950年代まで続いた検閲、その後に続く冷戦期の統制、そして芸術表現としての社会的認知が得られるにつれて起きてくる新たな要請など)。この変遷とその要因を調査し、憲法上の「表現の自由」理論に照らした考察を行うことで、日本における文化芸術法学の一助としたい。 これまでの資料調査から、アメリカでは、映画表現が民主過程に大きな影響を及ぼすことが第二次世界大戦前から意識されていた。「検閲」の残存はこのことと深く関連していると考えている。そうした映像表現の影響力への統制的関心の緩和と、文化資源・知的財産として奨励していく方向での関心が、1980年代に一定の地盤固めを見た、と考えている。 一方で、近年、海外の文化芸術政策において人種平等やジェンダー平等の観点から、過去の偏見を前提としたモニュメントの撤去や非公開、映画上映の可否をめぐる議論がある。このことを踏まえ、ジェンダー論と憲法上の「表現の自由」をどう総合していくかについて考察し、学会報告を行った。現在、フォーマルな法的規制や統制には抵抗力を持つ「表現の自由」の理論が、「政治的適正」に関する世論や団体の運動などインフォーマルな諸力によって、表現内容や上映の可否について影響を受けており、これを「社会的検閲」と見るか、健全な動きと見るかについては議論がある。こうした社会的諸力を、法学としての「表現の自由」論にどう位置づけるかについても考察し、「表現の場面」(公共性の度合い)によって法が関わる度合いも異なることの整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)平成30年度は、29年度に生じた遅れを完全に取り戻すには至っておらず、資料の収集・読解中心の研究活動にとどまることとなった。しかし、『映画で学ぶ憲法・第二集(仮題)』の出版計画が出版社との間で具体化し、複数の研究者と情報交換・意見交換を行う場を得て、成果の公表に向けての研究活動が進展している。 (2)平成30年度12月には「ジェンダー法学会」報告を通じて、映像を中心とするメディア表現がジェンダー・ステレオタイプを助長していると考えられる場合に、法理論はどのようにこの問題に臨むべきか、というテーマに取り組んだ。 (3)昨年度は、ある名誉毀損訴訟について裁判所提出意見書を執筆することとなり、この事情によって本研究の進捗が一時的に遅れたが、今後、本研究のサブテーマとして「映画表現と名誉毀損」という1項目を設けたい。過去に受け入れられていた映画作品が、人種平等、ジェンダー平等の観点から社会的批判を受けている現象と合わせて、公権力による人種差別と憎悪犯罪を描いた「ミシシッピー・バーニング」など、憲法問題を描き出す作品が名誉毀損に問われた事例を見ることは、本研究にとっても有益と思われるため、調査の対象に加えた。 (4)文化庁における「大学を拠点としたアートマネージメント育成事業」AMSEA(於 東京大学)からの依頼により、この事業の中の講義を担当し、本研究によって得た知見を提供し、意見交換を行った。映画など大衆の表現文化は、法によって支えられたり統制されたりする一方的・受動的なものではなく、文化芸術が法文化を反映し、大衆に(間接的に)伝達することで法を支える役割を果たす場面もあることが認識され、本研究にとって有益な内容内容拡充となった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、資料読解を中心とした研究活動を行いつつ、可能なところから、段階的な成果化を行う。その一環として、『映画で学ぶ憲法・第二集(仮題)』の出版を2019年度中(遅くとも2020年度)に予定している。この図書は、学生および一般市民向けの解説図書だが、映画表現における「表現の自由」に影響を与えた社会現象や法環境について考察する章も設け、本研究で摂取した知識を生かす予定である。 また、今年度も、文化庁における「大学を拠点としたアートマネージメント育成事業」AMSEA(社会を指向する芸術のためのアートマネージメント育成事業)(於東京大学)からの依頼により、この事業の中の講義を担当し、本研究によって得た知見を提供する予定である。 2019年度は、上記2件の成果化活動に注力することとする。その後、32年度には、これらの知見をより学術的な形に高め、《文化的な価値観・宗教観の衝突》が映画表現に及ぼしてきた影響について考察を及ぼし、論文発表を行う予定である。可能であれば、その中で、あるいは本研究課題終了後の派生的成果として、「映画表現と名誉毀損」に関しても論文としての成果化を行いたい。
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Causes of Carryover |
・成果作成に関わる人件費支出(編集とりまとめ作業、校正補助、資料整理補助など)および旅費を、成果公開準備の進度に応じて次年度に繰り越したため。 ・平成30年度中に購入予定だった研究室設置パソコンの購入(12万円を予定)を、次年度に繰り越したため。
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