2018 Fiscal Year Research-status Report
コーポレート・ガバナンス改革に直面した法人税および所得税のあり方に関する研究
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17K03368
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡辺 徹也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10273393)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 法人税法 / 会社法 / インセンティブ報酬 / シェアリング・エコノミー / 日独比較 / 所得税法 / 日米比較 / 電子経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、29年度に行った研究の発展として、インセンティブ報酬について会社法と租税法の観点から考察した。創業後業績が好調なベンチャー企業が 、攻めのガバナンスによってさらに成長を目指すためには、ベンチャー・キャピタル(VC)など外部からの比較的規模の大きな投資が必要となる 。この点に関して、アメリカ・シリコンバレーのハイテク・ベンチャー企業がVCから資金調達を行う場合は、優先株式を用いる方法が主流だといわれてきた 。そこで、アメリカと同じような資金調達を日本のベンチャー企業が行った場合、VCによる投資が行われた段階における課税の可否について検討した。 続いて、民泊等のシェアリング・エコノミー(個人等の資産等をインターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする仕組み)に関する法人課税について考察した。特に、Airbnbやウーバーのようなプラットフォームと呼ばれる企業に焦点をあて、これらの企業に対する法人課税の検討だけでなく、当該企業が有する情報が徴収上どのように扱われるべきかという視点からも検討を行った。これは税務におけるコーポレート・ガバナンスが執行上の観点から重要であるという前提に基づく考察である。シェアリング・エコノミーについては、2018年5月に日独の租税法に関する国際シンポジウムを開催して、比較法の観点からも有益な示唆を得ることができた。 最後に、組織再編税制に関する現状と課題について考察を行った。組織再編税制は、当時の商法における会社分割制度の創設を契機として、平成13年度税制改正において導入された。しかし、その後、多くの改正を繰り返した結果、現行法はどちらかといえば複雑でわかりにくい内容となっている。そこで、制度導入時から現在に至るまでの変遷、適格要件のあり方などについて、会社法との関係に重きを置きつつ検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストック・オプションやリストリクテッド・ストックに関する研究については順調に進んでいる。アメリカ法との比較についても、後述するGilson & Schizerの文献等を中心に行うことができた。 早稲田大学において国際シンポジウム「グローバル・エコノミーと租税法からの応答-日独の場合」を開催できたことは大きな収穫であった。このシンポジウムには、ドイツ連邦財政裁判所の現役の長官であるランドルフ・メリングホフ(Prof. Dr. h.c. Rudolf Mellinghoff)氏をはじめとして、日米の名だたる研究者および実務家がパネリストとして参加してくれた。今後の研究の足がかりとしては十分な成果をあげることができたと考える。 また、NBLに「企業の一生プロジェクト-具体的イメージから説き起こす企業法がインセンティブ・バーゲニングに与える影響」が連載されるようになったことも大きい。この企画は、会社法、労働法、金融法そして税法に精通した研究者・実務家が定期的に対談を行うことで、企業が抱える問題を学際的に考察するものである。原則として月に1回程度の会合で2~3時間集中して議論することにより、普段の研究においてともすれば税法に偏りがちな思考の不十分さに気付かされる大変貴重な機会となっている。 さらに経団連の21世紀政策研究所の研究プロジェクト「グローバル時代における~BEPS 新たな国際租税制度のあり方~BEPSプロジェクトの重要積み残し案件の棚卸し検証~」にメンバーとして参加できていることも大きい。そこでは、OECDのBEPSに関する最終報告書だけでなく、当該報告書に至るまでのディスカッション・ペーパーや報告書後のパブリック・コンサルテーションについても議論を行う。また研究者だけでなく、各企業における税務担当者や財務省・経産省等の意見を聞く貴重な機会となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
ストック・オプションやリストリクテッド・ストックに関する研究だけでなく、それ以外のインセンティブ報酬に関する研究を続ける。例えば、Gilson & Schizerの研究(Ronald Gilson & David Schizer, Understanding Venture Capital Structure: A Tax Explanation for Convertible Preferred Stock, 116 Harv. L. Rev. 874, 891 (2003))では、現行の清算価値を基準とした評価法(liquidation-based valuations)はナイーブであると指摘する一方で、それが有効な税を使った補助金として機能する旨を指摘していた。今後は、そのような観点から、日本におけるインセンティブ報酬と内国歳入法典83 条や財務省規則1.83との関連を検討してみたい。 また、インセンティブ報酬からさらに視野を広げる必要性も感じている。その1つとして、経済の電子化があげられる。電子経済は税制にとっても既存の国際課税ルールを揺るがしかねない大きなインパクトを与える。これまでOECDは、この問題に継続して取り組んできたが 、現状において最も重要な課題の1つとなっている。具体的には、2020年までにBEPS対応の成果を踏まえた報告書が提出されることになっている。したがって、直近でいうならば、2019年2月にOECDから公表された公開討議文書(Public Consultation Document)の検討を通じて、多国籍企業の税務執行におけるガバナンスの問題を扱うことにしたい。また2019年6月に福岡で開催される大臣・中央銀行総裁会議の議長国である日本政府の役割についても注目しておきたい。
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Causes of Carryover |
当初予定と差額が生じた主たる理由は、海外調査とデータベース購入を見送ったことにある。見送った理由は、どちらか1つを実行するにも金額がやや足りなかったからである。ただし、海外の研究者等との意見交換の一部は、2018年5月に早稲田大学で開催した国際シンポジウムにおいて実施することができた。データベース未購入については、一部は冊子媒体をコピーすることで、残りは当該データベースのトライアルを行うことで実質的に補うことができた。 翌年度は、海外調査とデータベース購入の両方について実行できるように、執行計画を立てたい。航空運賃はともかく、データベース使用料は年々上昇しているので、両方の実行が難しくなることも考えられるが、仮にそのようになったとしても、少なくとも、どちらかは実行できるように(つまり、できる限り当初の予定通りに研究予算を使えるように)したい。そのためには、海外調査とデータベース購入以外の支出を見直すことも視野に入れる。
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Research Products
(8 results)