2019 Fiscal Year Research-status Report
A considering the influence of Chilcot Report which verified Iraq War on the changing British Military Law
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17K03378
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Research Institution | Tsuyama National College of Technology |
Principal Investigator |
大田 肇 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (30203798)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軍事法 / 戦争開始権限 / チルコット報告書 / 憲法慣習 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は本研究の最終年度ということで、主として戦争開始決定への議会関与のあり方をまとめることより、チルコット報告書が指摘したブレアー首相のおこなった拙速な戦争開始決定を今後抑制する方策の一つとして提示する予定であったが、Brexit問題への対応に議会がその大半の時間を費やしたこと、およびその議会関与のあり方を巡る議論が錯綜した状態のままであることから、その提示は断念せざるを得なかった。 議会の戦争開始権限に関する習律(War Power Convention)に関する議論の様相は、従来の国王大権にもとづく事実上首相の判断による戦争開始決定には民主的統制の観点から問題があり、修正されるべきであることをほぼ共通認識としつつ、議会関与を強めすぎることに対する軍事関係者からの警戒、議会関与を法制化することによる裁判所の関与の可能性への危惧、国際法違反の軍事行動を議会承認によって合法化することの危険性の指摘などが混在しているというものである。 そうした中、裁判所の関与という問題に関し、2019年9月、Brexitに関する議会審議を回避するためにジョンソン首相がおこなった議会閉会を、最高裁判所が違法と判断した(Miller・その2事件)。裁判所が、憲法の基本原則(fundamental principles of our constitutional law)を掲げて政治事項に踏み込んだのである。この裁判所の積極的な姿勢は、首相が戦争開始権限に関する習律に反する対応をした場合、首相は裁判所に提訴される可能性を抱かせるものとなった。 以上の現状把握が、研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遅れた理由の一つは、上記の「研究実績の概要」でも取り上げたBrexit問題により議会はもとよりイギリスの公法研究者もそれに取り組まざるを得ず、本研究のテーマへの取り組みが一時的に弱まったことが挙げられる。また、これも既述したが、やはり戦争開始権限を巡る問題は、政治的に極めて重要かつ複雑な問題(内政と外交の交錯)であり、特にイギリスでは長年国王大権で対応され続けたものからの変更・修正であり、議論が錯綜するのはやむを得ない面が有る。日本人研究者がそれらを総合的に整理・分析するには、さらに焦点を絞り込んだ研究活動が必要であり、それへの対応に時間をとられていることも理由として挙げられる。また、訪英した際に訪問予定であったPeter Rowe教授が若くして亡くなられ、これまでの交流の蓄積が失われたことも痛手であった。Peter Rowe教授はイギリス軍事法研究の第一人者であった。
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Strategy for Future Research Activity |
チルコット報告書の主たる対象は、イラク戦争開始に至るまでの経緯の検証であり、その中の重要な部分が議会における審議・決定であり、それらに関するその後の議会での検討および専門家からの批判等を、この3年間、調査・研究してきたが、それらをさらに焦点を絞り込みながら継続していく。と同時に、チルコット報告書が指摘するもう一つの問題である占領への準備不足が、イギリス軍の不適切な占領施策を生みだし、イラク戦争開始への疑問をさらに高め、虐待されたイラク人への戦後の救済のあり方も注目されていたが、その延長線上にあるイラク人被害者のイギリス司法への訴えがどのような結末となったのか、も合わせて、調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
既述の理由で研究の進展が遅れてしまったことから、次年度においても同一課題での研究の必要性を認識し、そのため、最終年度途中から、最低限必要な資料等の購入に支出を絞り込み、残額を次年度の研究費としてプールしようと努力した。 次年度使用額は、主として、イギリスの専門書籍、関連論文の購入に充てる予定である。
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