2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03379
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
嶋 拓哉 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80377613)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 国際民事手続法 / 専属裁判管轄 / 知的財産権 / 国際倒産管轄 / 国際的強行法規 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,専属的な国際裁判管轄に関する研究であり,法定専属管轄および専属管轄合意の意義を包括的に調査研究することを目的とする。知財権の登録,存否または有効性等に関する訴えは多くの法域で法定専属管轄が妥当する領域であるが,平成29年度(初年度)は,わが国の訴訟における前提問題として,外国の特許権の登録等が争われた場合に,わが国裁判所がこの点を判断し得るかという問題について,具体的事案(知財高判平成27.3.25平成25年(ネ)10104号)を踏まえて検討を行い,成果を公表した。この問題を巡っては従前より争いがあったが,本研究では,わが国の裁判例,学説および海外の見解を網羅的に調査し分析を加えており,その学術面および実務面での価値は小さくないと考えている。 また,同じく知財権の一つである著作権に関して,インターネットを利用した侵害を巡る国際裁判管轄の問題を検討した。この研究に当たっても,具体的な事案(東京地判平成26年9月5日平成25年(ワ)23364号)を題材にしたが,その中で従前の裁判例を網羅的に調査したほか,学説についても可能な限り検討を行い,成果を公表した。 第三に,国際銀行倒産の問題について,国際的強行法規の適用と国際倒産管轄の関係を含めて分析を行い,平成29年9月開催の国際法学会2017年度研究大会で報告を行い,またその内容を論稿に纏めて公表した。これまでの政策対応の動向をも調査しており,特に実務面での意義を強調したい。 第四に,広く本研究テーマに関連する国際私法・国際民事手続法に関する業績として,サムライ債の管理会社による任意的訴訟担当の問題,ディスカヴァリに基づく米国判決の承認に関する問題,船舶先取特権の準拠法決定の問題,結合取引の準拠法決定の問題,インバウンド現象に起因する抵触法上の問題などについても研究を行い,これら成果を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
知財権の登録,存否または有効性等を巡る訴えについては,多くの法域で専属的な国際裁判管轄が法定されているが,本研究では現在に至るまで,知財権の登録等と法定専属管轄の関係に焦点を当てて調査研究を行い,その成果を公表するなど,おおむね順調に進展しているものと評価する。特に,わが国における知財権侵害訴訟で,前提問題として当事者間で外国特許権の登録等が争われる場合に,わが国がこの点につき判断し得るか否かは,当該外国の法定専属管轄との関係で大いに問題となるが,この論点につき従前の裁判例や学説,海外の動向を網羅的に調査したことは本研究にとって大いなる進展と捉えることができる。 また,国際銀行倒産を題材に,国際的強行法規適用の必要性が国際倒産管轄に如何なる影響を及ぼすかについても調査研究を行うことができた。従前より国際的強行法規の適用を法定専属管轄の存在意義との関係で重要視する見解も示されているが,それだけに国際的強行法規の適用問題にも研究範囲を拡げていくことは本研究の進展にとっては必須である。平成29年度(初年度)に国際銀行倒産を題材としてこの問題を分析したことにより,本研究を今後進展させていくうえで足掛かりになる,貴重な研究成果を得ることができたと考えている。こうした事実も上記評価を補強する材料であると考える。 さらに,本研究は専属的な国際裁判管轄を主たるテーマに据えるものであるが,従前の研究成果に乏しい分野であり,今後本研究を推進していくうえでは,その周辺知識についても幅広く調査することが肝要であると考える。多様な抵触法上の論点についても,一見する限り本研究と直接的な関係がないようなものも含めて,幅広く研究を実施し,論稿に纏めることができた。こうしたことも,上記評価を裏付ける材料の一つと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の推進方策は,一貫して,わが国だけではなく海外も含めて,従前の裁判例および学説を渉猟し,これら文献を読み込むことに尽きる。本研究テーマに関連する研究蓄積は乏しいものの,それでも国際知財訴訟が増加している趨勢の中で,本研究の対象範囲に含まれる事案が漸増していく傾向にあり,かつそれに伴い関係する研究成果も少しずつ現れていることから,今後も引き続いて,これら資料の読込みを着実に進めていくこととしたい。 そのうえで,本研究は法定専属管轄と専属管轄合意という2つの問題領域を包括的に研究することを目的とするが,そのためには,これら各問題領域に閉じた研究成果を着実に挙げていくことが求められる。そのうち,法定専属管轄の領域に関して,平成30年度(今年度)は,29年度(初年度)の研究成果を踏まえて,わが国の訴訟において,抗弁として外国特許権の登録の無効が提出された場合の取扱いについてさらに踏み込んで調査研究を行うこととしたい。他方で,専属管轄の合意に関して,平成30年度は相殺抗弁の提出と専属管轄合意の関係を取扱う。わが国では自働債権に外国に専属管轄を認める合意があってもわが国訴訟での相殺抗弁の提出を妨げないとする見解が有力である(東京地判平成25年4月26日平成23年(ワ)19406号)が,ドイツではこれとは反対の見解が有力である。まずはドイツにおける見解を調査し,仮に両国間で見解が分かれる場合には,その実務的もしくは歴史的な背景も含めてこの問題に関する分析を進めたいと考えている。 なお,本研究に広い意味で関係する抵触法上の諸問題についても,引続き本研究の範囲と考えて,調査研究を積極的に行い,その成果公表を着実に行っていくつもりである。
|
Causes of Carryover |
平成29年度については,本研究に必要とされる基礎的な書籍・資料の購入を計画していたが,そのうち,当該年度に購入を予定していた書籍の刊行が遅れたために,5万円強の未使用額が発生する結果となった。 平成30年度については,次年度使用分はこの書籍の購入に充当するほか,翌年度請求分は引続き,本計画の遂行に必要な書籍の購入,研究会等への出席のための国内出張旅費,および資料郵送のための通信費等として,有効に使用させていただきたいと考えている。また,先方との間で日程上の調整が着けば,年度内に,本研究に関する資料・情報収集のために外国出張(ドイツ等)を行うことを検討しており,そのための旅費の支出も想定している。
|
Research Products
(13 results)