2022 Fiscal Year Research-status Report
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17K03379
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
嶋 拓哉 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80377613)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際的な法定専属管轄 / 登録移転・抹消請求訴訟 / 反射的効果 / ブリュッセルIbis規則24条 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度の研究においては,前年度に国際私法学会第134回研究大会で行った報告内容を踏まえて,本課題研究の中核を構成する論文の作成・公表を行った。その中で,①立案担当者の見解及び通説では,登録知財権を巡る国際的な法定専属管轄規定である民訴法3条の5第2・3項について反射的効果を肯定するが,わが国の主権的・国家的関心事項が外国のそれと一致しないことや,欧州連合ブリュッセルIbis規則24条の解釈論では反射的効果を否定していること等を踏まえて,こうした立案担当者等の見解に批判的な立場を採用して自説を展開した。また,②「登記又は登録に関する訴え」を国際的な法定専属管轄事項とする民訴法3条の5第2項に関して,立案担当者の見解及び通説はその射程が登記・登録にかかる移転・抹消請求訴訟に及ぶとするが,登記・登録は譲渡契約等に基づく実体的な法律関係を反映するものに過ぎないこと等を踏まえて,これに批判的な立場を採用して自説を展開した。 加えて,本研究課題の周辺に位置する論点に関する論文等の執筆も積極的に行った。第一に,online service providerを取り巻く国際的法規律の問題を検討したが,その中で,オンライン取引を巡る国際裁判管轄や,公法的規制の問題を取扱ったほか,オンライン取引に対する執行管轄権行使のあり方について従前の裁判実務の流れや近時の議論の動向等を踏まえて検証を実施した。第二に,企業活動のグローバル化の中でソフトローが果たすべき役割について,幾つかの事例を挙げつつ具体的な検討を実施した。第三に,北朝鮮帰国事業を巡る訴訟を題材として,未承認国と裁判権免除の関係を整理したほか,不法行為管轄や緊急管轄等の国際裁判管轄の問題にも研究対象を拡げて,より包括的な形で国際裁判管轄一般の問題について検証を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心的課題は,①国際的な法定専属管轄規定の反射的効果を肯定するか否かについて,欧州連合における国際的な法定専属管轄規定(ブリュッセルIbis規則24条)の解釈論等を踏まえて,自説を確立すること,②わが国の国際的な法定専属管轄規定のうち,登録知財権に関するもの(民訴法3条の5第2・3項)について,①と同様に比較法的視点も踏まえた上で,その射程を制限し移転・抹消請求訴訟を同規定の対象から除外することが出来ないかを検討すること,③わが国の現行法では内国不動産の権利帰属に関する訴えを国際的な法定専属管轄事項としていないが,わが国の領土保全の実効性を高める観点からその見直しを図るべきとの立法論上の主張を展開すること,の3点である。このうち,①については令和3年度に論文を公表し総ての調査研究活動を終えていたが,令和4年度は,②について論文の作成・公表を終え,総ての調査研究活動を完了させることが出来たと考えている。また,③については,その一部の論点について令和3年度に論文を作成・公表したが,令和5年度中を目途に,その他の論点を含めた形でより包括的な内容を備えた論文を作成し公表する方針である。 また,令和4年度には,国際的な法定専属管轄の周辺事項として,公法的規制の属地適用の問題,執行管轄権行使における国際的な制約に関する問題,裁判権免除の問題,ソフトローによる国際的な企業活動の規制に関する問題等をも取扱った。 本課題研究の期間については,COVID-19の影響等により,当初の4年(平成29年度~令和2年度)を超えて再々延長を行っているものの,以上のことを踏まえると,その調査研究活動は概ね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究の主要な検討作業は相当程度進展しており,その全工程の完了を視野に入れることが出来る段階にまで到達しているが,令和5年度では特に次のことに的を絞って作業を進め,その最終的な取り纏めを行う方針である。 即ち,令和3年度に,内国不動産の権利帰属に関する訴訟を国際的な法定専属管轄の対象にすべきとの立法論上の見解を論文にて公表したが,それに関連して,外国人による内国不動産取得に関するわが国の実質法上の規制枠組みについて,1925年制定の外国人土地法の実効性を検証するほか,条例による内国不動産取得規制の可能性にも研究活動を拡げてみたいと考えている。とりわけ,後者の論点を巡っては,①条例において不動産取得に公法的規制を課した場合に,民法90条との関係においてその私法的効力を如何に考えるべきか,②条例で直接に不動産取得に関する私法的効力を規定することは出来ないのか,といった問題が具体的に想定されるが,こうした問題についても検証を行い,私見を提示したいと考えている。 これにより,当初計画で想定していた総ての論点について検討作業を終えることとなるが,その後,令和5年度中を目途に,本課題研究に関する包括的な取り纏めを行うこととしたい。
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Causes of Carryover |
本課題研究では,外国人による内国不動産の権利取得状況を把握するために,国内の水源地及び自衛隊基地周辺での実地調査を行う予定であったが,COVID-19の感染拡大等の影響を受けて,そうした実地調査を行うことが困難な状態が続いている。また,国際私法学会の研究大会やその他の研究会に出席するための国内出張を当初計画していたが,同様の理由からオンラインでの実施が続き,それに相当する旅費支出が現時点に至るまで発生していない。こうしたことを主たる要因として,次年度使用が生じる結果となった。 令和5年度は本課題研究を終了させることになるが,そのためにも研究費の執行を速やかにかつ完全に行うこととしたい。次第に対面での打合せや情報・意見交換を行い得る社会環境が整いつつあること等を踏まえて,具体的には,①外国人による内国不動産の取得状況を把握するための国内出張の費用,②外国人による内国不動産取得規制に関する文献をはじめ,本課題研究の実施に必要な書籍・資料の購入・収集費用等に充当する方針である。
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Research Products
(4 results)