2017 Fiscal Year Research-status Report
国際刑事司法制度の効率性に関する基礎的研究:訴追戦略と国家の捜査・訴追義務
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17K03380
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
竹村 仁美 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10509904)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国際刑事司法 / 国際刑事裁判所(ICC) / 国際刑事法廷 / 捜査・訴追義務 / 効率性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、国際社会の関心事である重大犯罪を行った個人の刑事責任を追及する際、被疑者・被告人の人権を保障しながら、国際刑事司法制度を効率的に運営するための国際・国内裁判の役割について、国際刑事司法機関検察局の訴追戦略と重大犯罪に対する国際法上の国家の捜査・訴追義務の研究によって明らかにしていくことにある。
研究項目は、①国際刑事司法の効率性評価基準と効率性の基礎的研究、②国際刑事法、国際人権法上の国家の捜査・訴追義務に関する解釈論の整理、③国際刑事司法機関の検察局の訴追戦略と国家の捜査・訴追義務の関係性、④国際刑事司法制度の実効性と正統性の調和的実現のための効率的制度設計の基礎的研究の4つである。
本年度は、このうち、①及び②の研究を行い、「国際刑事司法の効率性評価基準と国際刑事司法の効率性と適正手続の均衡に関する研究」、「国際刑事法、国際人権法上の国家の捜査・訴追義務に関する解釈論の整理」という2つの研究主題について、オランダ・ハーグの平和宮図書館にて、資料収集を行った。海外調査研究としては、2017年9月13日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所において事件の傍聴を行い、国際刑事裁判所の日本人裁判官、同裁判所検察局法務部職員、同裁判所報道官に捜査・訴追義務及び効率性に関する聞き取り調査を行った。さらに、同日、オランダ・ハーグに置かれているコソヴォ特別検察局の米国人特別検察官(2018年3月31日に任期満了で離職)に対しても同様の聞き取り調査を行った。オランダ出張の関連成果として、国際刑事裁判所日本人裁判官が研究代表者所属機関を2018年1月15日に訪問してくださり、国際刑事裁判所の課題について国際政治学研究者、刑事法学研究者を交えて議論する場所を設けた。②については、暫定的研究成果をまとめ、学術雑誌『国際法研究』第6号に投稿し、2018年3月に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から2017年度の研究計画にあった文献収集と聞き取り調査、そして学術雑誌への投稿、記念論文集への寄稿をほぼ予定通りに果たした。加えて、2017年度中に、英語による国際刑事裁判所とアジア地域の関係性に関する研究成果も公表することがかなった。ただし、2017年度後半は、日本語、英語による執筆作業に想定以上の時間を要したため、文献及び資料の渉猟を十分に行うことがかなわなかった側面もある。もちろん、そうした時間的、能力的制約の中でも、国際刑事裁判所の最新動向への目配りは継続した。特に、2017年度は、一部の国家の同裁判所規程からの脱退の動向とそれに対する国際刑事裁判所の対応について、注視する必要があった。
2017年度に計画していた「国内刑事司法の効率的運営の指標についての刑事法研究者との意見交換」については、不十分ではあるものの、国際刑事裁判所の日本人裁判官を所属機関に招いた際、一定程度学際的な意見交換が達成できた。研究成果の公表について、欧州人権条約上の人権侵害に対する国家の調査義務に関し、所属機関のEU法研究会において2017年度の初めに報告する機会を得た。さらに、その研究成果を2017年度の半ば頃にEU法研究へ掲載し、口頭報告及び活字での成果公表の両方を2017年度前半期に済ませることとなった。そこでは、欧州人権条約の違反に対する締約国の調査義務について、当該締約国が国際刑事裁判所規程締約国、拷問禁止条約締約国でもある場合の義務内容の検討を、欧州人権裁判所、英国国内の裁判例に基づいて行い、国際人権法上、国際人道法上、国際刑事法上の捜査・訴追義務の展開を総合的に検討する良い契機となった。反省点として、学外での成果発表については、当初の計画通りにいかなかった側面もあるけれども、今年度収集した資料をもとに、研究成果を口頭発表できるよう一層研鑽を積んで行く所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、2017年度に遂行した国際刑事司法の効率性に関する研究及び国際刑事法・国際人権法上の国家の捜査・訴追義務の研究の成果を受けて、新たに、「国際刑事司法機関の検察局の訴追戦略と国家の捜査・訴追義務の関係性」、「国際刑事司法制度の実効性と正統性の調和的実現のための効率的制度設計の基礎的研究」という2つの研究主題に関して理論的基礎を形成していく。そして、2017年度の研究項目中の国家の捜査・訴追義務について、各国国内法が、どのような範囲で、国際法上の犯罪行為を捜査・訴追する義務があると認識しているのかどうか、国内法状況に対する調査を継続する。
具体的には、国内・国際刑事司法の有罪率、司法取引等に関する国内外での調査を通じて、本課題に対する理論・実証両側面からの研究を行う。この目的のため、2018年度も必要に応じて、メール・電話を用いた聞き取り調査及び国際刑事裁判所での現地調査を行っていく。日常業務においては、常に最新の知見を得るようインターネットを通じた資料収集にも励む。
研究の中間的成果公表については、論稿の形でまとめることを念頭に、2018年度も執筆作業を進める。その他、口頭報告の機会も模索していく。以上の通り、現時点において、研究計画の大幅な変更は見込まれず、今後も計画的に研究を進めて行く予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、他業務の都合上、海外出張が当初計画よりも1件少なくなったこと、今年度上半期に国際連合欧州本部図書館、平和宮図書館を利用することができたことから、本研究計画に計上していた多くの資料収集が電子媒体等で入手可能となり、購入予定であった書籍代金が不要になる等したことが挙げられる。これに関連して、研究計画に計上していた海外出張での資料収集の時間を短縮した結果、旅費も旅程も予定よりも無駄のないものに切り替えることができた。加えて、年度末に購入しようとしていた洋書の刊行遅延が理由に挙げられる。
次年度は、一層精力的な出張計画と資料収集を行い、より計画的且つ適正な予算の執行に努めたい。
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