2018 Fiscal Year Research-status Report
Social Integration of Immigrants and Legal Issues
Project/Area Number |
17K03384
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西谷 祐子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30301047)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 玲子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (30432884)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 移民 / 社会的統合 / 国際家族関係 / 移動の自由 / 家族統合 / 多文化主義 / アイデンティティー / ケア労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,少子高齢化が進む中で,日本の政治・経済・社会状況を踏まえて,どのような移民政策を立て,どのように法制度を整備する必要があるかについて多角的に検討することを目的としている。初年度である平成29年度は,各国の移民政策について比較検討するため,欧米諸国の移民政策に関する基本文献を渉猟し,外国人労働者の受入体制及びその社会的背景について考察を進めるとともに,その基盤となる法学,政治哲学,経済学,社会学及び文化人類学についても考察を深めた。 平成30年度は,その成果を踏まえて,研究代表者はドイツ,オランダ,フランス,スイス,米国に渡航して比較法調査を行い,個別の法制度の内容について考察を深めた。国籍法制については,各国において,従来の国民国家への帰属を基軸とした国家への忠誠と恩寵を基礎とした関係から,流入移民が増加し社会的統合の必要性が高まる中で,血統主義と平行して生地主義も採用したうえで重国籍を広く容認し,個人が複数国籍をもつことが常態化していること,また欧州各国では国籍法制が収斂しつつあり,国籍の意義が変容していることを考察した。国際家族関係については,欧米諸国におけるムスリム移民の統合をめぐってどのような家族関係に関する問題が生じており,どのように受入国の人権規範及び公序との調和が図られているか,また理論的観点から非国家規範である宗教規範や慣習規範がいかにして国家法体系の中に組み込まれているかを考察した。他方,研究分担者は,主として社会学の観点から,日本及び東アジア諸国におけるケア労働者の現状と課題,外国人労働者の受入体制のあり方及び移民政策について積極的に考察を進めた。 研究代表者及び研究分担者は,いずれもその研究成果を多数の論稿及び学会報告の形で発表しており,学際的な視点から移民の社会的統合について分析及び考察することで,充実した共同研究を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者と研究分担者は,平成30年度も当初の予定よりは会合をもつ機会が少なかったが,相互に情報提供及び意見交換しながら,移民の社会的統合のあり方について各々法学及び社会学の視点から着実に研究成果を挙げてきており,学際的な視点から充実した共同研究を行ってきている。 研究代表者は,平成30年度にほぼ当初の計画どおり,ドイツ,オランダ,フランス,スイスのほか米国に渡航して比較法調査を行い,各国の移民政策及び国籍法制・国際家族法制について分析及び検討をすることで,充実した研究成果を挙げることができた。そして,欧州人権裁判所や欧州司法裁判所のほか,ドイツ,フランス,英米及びカナダの主要判例も渉猟し,人権保障のあり方と多文化主義の意義について積極的に考察を進め,研究分担者の協力を得ながら社会学的視点も取り入れることで,日本の制度との違いも踏まえながら,多角的な考察を行ってきている。研究分担者は,当初予定していた海外渡航による研究成果の発表を令和元年度に先送りすることとなったが,平成30年度も短期の渡航による資料収集及び研究発表を行っており,東アジア及び日本におけるケア労働を中心に社会学の観点から積極的に研究を進めた。そして,外国人労働者の受入体制のあり方,日本の制度の問題点,外国人の社会的統合の不十分さ及び改善すべき点,そして多文化主義を実現するための方策について,充実した研究成果に結実させている。 特に平成30年12月に日本政府が外国人労働者を大幅に受け入れることを決定し,出入国管理法を改正して以来,移民政策のあり方も大きく転換することと決定され,本研究はまさに時宜を得た研究課題となっている。研究代表者及び研究分担者は,今後も連携を密にしながら相互に情報提供及び意見交換を行い,学際的な視点から積極的に共同研究を進める予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
日本政府が平成30年12月に30万人以上の外国人労働者を受け入れる方向に舵を切って以来,本研究課題の目的である移民とその社会的統合のあり方に関する研究は,日本社会にとっても焦眉の関心事となっている。当初の研究計画では,今後の日本における移民政策を考察するため,ブラジルとの関係を中心に日本の移民政策の歴史と今後の発展の方向性を展望する予定であったが,政府の方針転換によって,より実践的かつ具体的な課題に取り組む必要性が生じてきている。 そこで,本研究課題においては,最後の1年間で,今後増加が見込まれるフィリピン及びベトナムを始めとするアジア諸国からの外国人労働者の受入れを中心に,日本における労働条件と技能実習生の扱いの問題点,職業教育及び学校教育のあり方,家族統合の制限とその問題点,外国人の社会的統合の促進,そして今後の包括的な移民政策のあり方について,法学及び社会学の観点から多角的に考察することとする。 具体的には,研究代表者は,法学の視点を中心として,出入国管理及び外国人労働者の扱い並びに人権保障,家族統合のあり方,そして移民の社会的統合と多文化主義について,欧米諸国の状況と対比させながら考察を進める予定である。また,アジア諸国からの外国人労働者については,その受入体制,労務管理・賃金等の待遇,社会保障が不十分であることが指摘されており,本国であるアジア諸国においても問題となっている・そこで,研究代表者及び研究分担者は,相互に協力して情報交換を行い,労働・社会保障法制も視野に入れながら日本及びアジア諸国における現状の把握に努め,その問題点及び改善すべき点を浮き彫りにし,労働者の送出し国の事情も含めて考察を深める予定である。最終的には,長期的かつ大局的な視点から,東アジアの一国としての日本における移民政策のあり方について,具体的な提言へとつなげることとしたい。
|
Causes of Carryover |
研究分担者は,他の業務との関係で,当初予定していた海外渡航を平成30年度中に実施することが困難であったうえ,令和元年度中にオランダ及び台湾にて各々重要な国際学会が開催され,報告を行うこととなったため,海外渡航を先送りしてその分の経費の支出を次年度に行うこととし,当初の予定を変更することとした。
|
Research Products
(31 results)