2018 Fiscal Year Research-status Report
Considering Adequate Legal Models for International Cyber Currencies
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17K03392
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久保田 隆 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50311709)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 暗号資産 / 仮想通貨 / ブロックチェーン / 資金洗浄 / 中央銀行デジタル通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国際仮想通貨法制を巡る統合モデル原則(私法・公法)の提案にある。このため、各国や国際機関の立法状況、国内外の検討状況を踏まえて 仮想通貨を巡る私法と②公法上の論点の国際相互連関を明らかにし(第1段階)、国内外の文献調査や実務家・学者との議論を通じて検討を深め(第2段階)、新興国等を含む諸外国が立法の際に参照可能な仮想通貨法制の統合モデルを提案する (第3段階)ことを狙いとする。 2018度は第2段階を深め、数本の論文を公刊したほか、4月に国際法協会日本大会(於:東大)、5月に国際法協会通貨法委員会(於:ナバラ大)、9月に中日民商法研究会(於:福州大)、11月に中央銀行法務国際会議(於:ペルー中央銀行)、11月に国際商取引学会(於:同志社大)で自分の研究最先端を報告し、内外専門家と活発に討議。2019年3月16日には国際取引法学会シンポジウムのコーディネータとしてUNCITRAL法務官Casttelani氏、同志社大高橋宏司教授、学習院大小出篤教授(UNCITRAL日本代表)を早大に招いてモデル法とブロックチェーンのシンポを開催し、活発に討議した(同内容は国際商事法務2019年5月号で公刊)。 2019年度はUNCITRALやIMFとの協調を図りつつ第3段階に踏み込む。スイス等で本研究と同方向の研究が進む中、4月26日には国際法協会通貨法委員会(於:香港金融管理局)で自分の研究最先端を報告し、上記統合モデル原則についてIMFやBISの当局者と議論した。また、7月6日に早大で産総研の技術専門家と暗号資産差押えに関するシンポを開催・報告し、9月14日には中日民商法研究会(於:昆明大学)で、11月15日には国際法協会通貨法委員会(於:BIS)で報告・討議する予定であるほか、2020年3月の国際取引法学会ではUNCITRALアジアセンター新所長を招く予定で交渉中。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度も同様であったが、当初の予想よりもこの問題を巡る事態の進行が早く、各国や国際機関の対応も徐々に表れ始めていること、国内外の学会報告を通じて、専門家の知己を多く得たこと、により計画以上に研究を進展することができた。具体的には以下の通り。 第一に、本問題の重要性に鑑み、国内外の学会報告機会や他専門家からの情報が容易に得られた。従来から比較的報告しやすい国際法協会通貨法委員会や中日民商法研究会、国際商取引学会に加え、国際法協会日本支部やペルー中央銀行の中央銀行法務国際会議からも有難く報告オファーを得られた。また、論文でも国際商事法務や国際商取引学会年報等に加え、商業誌の金融財政事情の執筆オファーも得られた。さらに、国連UNCITRALからも法務官を招き、本研究でシンポジウムを主宰できた。2019年度も、論文で仮想通貨に関する判例評釈を依頼され、年度末のシンポジウム主宰でもUNCITRALから前向きのお返事を頂き、幸先良い。 第二に、本研究と同じ問題意識に立つ研究が幾つかの国で公表され、日本でも重大な改正が近く実施される見通しにある。特に同じ大陸法のスイスで2018年12月に公刊されたFederal Council編のレポート『Legal Framework for DLT and Blockchain in Swizerland』が注目され、IMFでも本研究と同じ政策を模索していることが判明した。日本でも2019年3月に資金決済法等の改正が閣議決定され、倒産時の顧客保護や差押えに関する法整備が近く実現予定である。これが仮想通貨の私法上の法性決定にも影響を与え、私見では「信託」構成の妥当性が高まり、研究の方向性が明確化したと評価する。日本ではこうした動きはあまり紹介されないが、2019年度は日本だけでなく諸外国や国際機関の動き等も踏まえて、積極的に論文執筆・学会報告したい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、スイスやIMF等で本研究と同じ方向性、すなわち規制法だけではなく取引法も含めた国際仮想通貨法制を巡る統合モデル原則の追求の議論が積極的になされるようになり、研究の方向性に自信を深めた。そこで、諸外国の専門家と積極的に情報交換や議論を重ね、日本だけで通用する議論ではなく国際的に通用する議論に高めたい。具体的には、従来同様に取引モデル法の策定機関である国連UNCITRALと私の所属する国際取引法学会の関係を一層緊密にし、国際法協会通貨法委員会を通じたIMFやBIS当局者との対話を一層進める。また、諸外国のレポートは日本ではあまり紹介されていないため、こうした内容の紹介や分析を日本語で積極的に発信する。 次に、本研究の独自性を高める部分として、産業総合研究所等の暗号技術専門家との協働研究を一層進め、法的解決の難しい課題を技術的に解決する方策を模索する。例えば、暗号資産(仮想通貨)の差押えや没収について、暗号キーを交換所が保有しない場合(保有する場合の法整備は既に現在の改正案でかなりカバーされている)、差押え等を可能にするには捜査当局や執行当局が複数の取引関係者の取引情報を無断で検閲することができる必要があるが、これは憲法上の検閲の禁止やプライバシー保護の関係で難しい。それでは、関係者のアイデンティティを特定せずに技術的に絞り込むことで法律問題を回避できないか。どうやら暗号技術的にはある程度可能のようであり、こうした可能性についても追及したい。
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Causes of Carryover |
2018年度は、(1)5月にペルー中央銀行から11月の国際会議に招待を受けたものの旅費・宿泊費共に当方持ちであったほか、(2)2019年3月16日の国際シンポに招聘する国連UNCITRALのゲストが自前で来日予定だったのが二転三転し、旅費・宿泊費共に当方持ちとなったことで、当初予定より多額の出費が見込まれ、前倒し支払い請求を行った。また、(3)8月実施の国際法協会(於:シドニー)に参加予定だったため、旅費・宿泊費・学会参加費を見込んでいた。 しかし、(1)ペルー出張はエコノミー格安航空券と格安ホテルの利用で予想を大幅に下回る金額で出張でき、(2)国際シンポに関して外部資金の補助(全国銀行学術財団、セコム財団寄付金)を得、早大比較法研究所の人的補助も得られたほか、(3)シドニーの学会参加は残念ながら所属校の入試校務および私の体調不良が原因で見送らざるを得なかったため、予想外に支出が抑えられた。 もっとも、2020年度に京都で開催される国際法協会に向けて、日本銀行、神田秀樹学習院大学教授と共に事務局を担当するため、内外の専門家と様々な調整や意見交換を行う機会が2019~2020年度にわたり著増することが見込まれる。また、最終年度に向けて研究成果を形にする上でも研究成果の英訳など様々な費用が見込まれる。このため、これまでに節約できた資金をその費用として充てたい。
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Research Products
(20 results)