2018 Fiscal Year Research-status Report
カール・シュミットの国際秩序思想における基本概念:媒介性・敵・中立
Project/Area Number |
17K03399
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
西 平等 関西大学, 法学部, 教授 (60323656)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カール・シュミット / 媒介性 / 敵 / 中立 / 国際法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、カール・シュミットの主権論を中心に研究を進めた。とりわけ、「主権者とは、例外状態について決断する者である」という、カール・シュミットの主権の定義の意味を明らかにする研究を行った。シュミットは、国家における主権の担い手という問題を回避する「国家主権」論への批判的視座を維持しつつも、規範主義や多元主義から提起された説得的な主権批判論に反論するなかで、この主権の定義を提示した。規範主義や多元主義が、国家を、法規範によって与えられた権限を行使する諸機関の集合体に還元することで、法を超越する主権国家という観念を批判したのに対し、シュミットは、規範なき決定としての「例外状態に関する決定」を主権者の指標とみなすことで、主権概念の再生を図る。このような主権論の背景には、媒介的世界と無媒介的世界の区別という秩序像がある。すなわち、他者の権限領域を尊重する適正な手続を通じてのみ、自らの価値や正義を実現しうる媒介的世界(正常状態)と、そのような制約を度外視して、あらゆる事実的に必要な手段を用いて価値や正義を実現しうる無媒介的世界(例外状態)との区別を基盤とする秩序像である。そして、主権者は、その境界を司る者として定義される。 この研究成果は、日本政治学会『年報政治学』の編集委員による検討会議(18年9月)において報告され、討議に付された。19年度には、その内容が『年報政治学』において公表される予定である。 成果公表としては、本研究の成果を含む単著著作『法と力:戦間期国際秩序思想の系譜』(名古屋大学出版会)を出版し、その内容について、関西大学法学研究所特別研究会(18年7月)および北海道大学政治研究会(19年1月)にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における核心的な概念である「媒介性」について、シュミットの初期の著作の分析を通じて、研究を進めることができた。さらに、主権という側面に限ってではあるが、「媒介/無媒介」という対抗を基軸とした分析の具体的成果を論文として執筆し、すでに入稿した(発行は19年度)。したがって、研究の進展および公表の準備という点において順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにした「媒介/無媒介」という秩序構想が、国際法論・国際秩序論についても維持されているかどうかを検討することが19年度の課題である。規範主義や多元主義による主権批判論は、そのままの形で、国際秩序思想に展開可能である。ケルゼンにおいては、根本規範の審級を一国の憲法から国際法へと繰り上げることによって、デュギーにおいては、国際的に存在する相互依存関係に基づく法規範を考慮することによって、国家の理論を、国際秩序の理論に容易に拡張できる。それに対し、シュミットの主権論の射程は、国家における権力の担い手の問題に限定されており、それをそのままの形で、国際秩序論に拡張することは難しい。しかし、抽象的な水準で把握された媒介/無媒介の区別という秩序構造は、シュミットの国際法論にも引き継がれているように思われる。今後は、その点を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(1 results)