2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K03402
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
池田 悠 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (00456097)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 社会法学 / 労働 / 倒産 / 企業変動 / 再建 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、組織再編や倒産など企業の根幹を揺るがす大規模な「企業変動」が日常化する中で、企業変動に伴う労使間での利害調整の仕組みとして、伝統的な労使紛争の解決システムが機能不全に陥っている実情に鑑み、新たな労使間での利害調整メカニズムを探求するものである。研究3年目である本年度前期は、前年度までの研究で顕在化された問題関心と獲得された比較法的視座を元に、在外研究中の環境を最大限に活用してアメリカ法の現状を把握することに注力した。ここでは、アメリカにおける企業変動下での利害調整をモデル化するため、ノースウェスト航空(現デルタ航空)のように、2000年代初頭に共和党政権下で公的支援を伴わずに実施された企業変動事例であり、かつ、労使間での利害調整がこじれた結果としてストライキにまで発展し、その是非が問題とされた事例と、GMやクライスラーのように、2000年代末期に民主党政権下で国の積極的な関与と公的支援を伴う形で実施された企業変動事例であり、かつ、労使間での利害調整に際してストライキなどの深刻な労使紛争を生まなかった事例を比較対照し、国の関与や公的支援が企業変動時に労使関係にもたらす影響や労働者に対する利益分配のあり方の検証に努めた。また、本年度後期には、外国法にかかる研究成果を受けて、比較法的分析軸を設定しつつ、企業変動時における労使間利害調整システムの探求を開始した。ここでは、同じ企業変動でも、やむなく企業変動に追い込まれるという意味で消極的企業変動とも言える企業倒産時などの経営危機時と、近年増加しつつある積極的企業変動とも言える事業投資段階の相違に着目しつつ、研究を進めるよう留意した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究では、企業変動に伴う労使間での利害調整の仕組みとして、伝統的な労使紛争の解決システムが機能不全に陥っている実情に鑑み、新たな労使間での利害調整メカニズムを探求するという目的のもと、比較法的手法を用いた研究を進めている。ところが、事前の研究計画策定段階で織り込めなかった研究期間の取得に伴い、アメリカでの在外研究に従事することとなったため、前年度から必ずしも当初に計画していた通りに研究を進めることができていなかったところ、本年度も在外研究の継続に伴い、前年度からの繰り越し課題となっていた日本法研究の深化に関しては、外国における環境上の制約もあって、必ずしも事前に予期した程度にまで研究を進めることができなかった。また、本年度後期には在外研究が終了したものの、本研究の特色とする実務者との交流を通して問題状況を探求する過程では、実務者との双方向的な協働関係の構築が不可欠であるにもかかわらず、長期在外研究後に実務者との連携関係の再構築に想定以上の時間を要したため、年度内に実務的知見からの検証を十分に受けることができなかった。そのため、昨年度以上に実務的知見を獲得する点において計画に遅れを取った状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、計画に従った研究遂行における支障となった在外研究期間も既に終了しているため、国内での実務者との双方向的な協働関係を直ちに再構築することが可能である。そこで、次年度には、本年度までの研究計画において、環境上の制約から十分に遂行することのできなかった実務者との交流を通じて、実務的知見から日本法の検証を行い、本年度までに生じてしまった計画の遅れをカバーする。併せて、本年度までの研究によって獲得された比較法的知見に基づき、本研究の総括となる企業変動時の労使間利害調整システムの探求を試みる。ここでは、各種の企業変動の特性や労使関係の相違をも踏まえることで、企業変動時の労使紛争を予防する要素や既存の紛争解決システムを機能させる条件など、労使間の利害調整メカニズムを実務から理論へ還元する作業を行う。そして、研究成果の取りまとめを推進し、わが国の企業変動における労使紛争を回避するための労使間利害調整メカニズムを構想することで、日本法モデルとして提示することを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度の研究費に関して、次年度使用額が生じたのは、本年度までの在外研究に伴い、実務者との交流に環境上の制約が生じたため、実務者との交流を図る過程で生じると見込まれた研究費が十分に使用できなかったことに原因がある。そこで、次年度は、速やかに実務者との双方向的な協働関係を再構築し、本年度に使用する予定であった旅費や謝金などを有効に活用することで、効率的に実務的知見の獲得を図り、研究成果の取りまとめに向けた準備を加速させる予定である。
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