2017 Fiscal Year Research-status Report
憲法28条の権利主体と保護範囲の分析を通じた労働協約法理の再検討
Project/Area Number |
17K03403
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
桑村 裕美子 東北大学, 法学研究科, 准教授 (70376391)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 労働協約の規範的効力 / 協約自治 / 協約単一法 / 労働組合 / 憲法28条の勤労者 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、憲法28条の権利主体である「勤労者」概念を明らかにすべく、憲法の制定過程を明らかにすることを予定し、この点の調査を進めた。これにより、憲法28条の直接の由来は、GHQ内の民政局の議論を経て作成されたGHQ案の第26条”The right of workers to organize and to bargain and act collectively is guaranteed.”であり、”workers”は、外務省仮訳・閣議配布案では「労働者」と訳されたが、日本政府が作成した憲法改正草案要綱以降は一貫して「勤労者」と訳され、これが現行28条の文言となったことが確認できた。また、こうした訳語の選択について当時の社会状況や学説の指摘を整理した。この立法経緯が憲法28条の解釈にどう影響を与えるかは、引き続き検討していく。 また、労働協約の規範的効力についての日本の議論を整理し、就業の非雇用化などの新たな状況において労働協約の制度がどのような課題を抱えているかを整理した。 さらに、初年度は、次年度に中心的に扱う労働協約の規範的効力の憲法上の位置づけについて、予備的作業を進めるため、日本の労働協約法理に多大な影響を与えたドイツ法の議論を整理することを予定していた。もっとも、2017年7月11日に協約単一法についての重要な最高裁判決が出たので、その範囲の理解と学説の状況を整理することに時間が割かれた。協約単一法は、規範的効力のある労働協約の適用について、一つの事業場で組合員数の最も多い労働組合の労働協約のみ適用されるという原則を定めた法律であり、これが憲法上の協約自治の原則に照らして合憲かが大きく争われていた。この点についての最高裁の論理を明らかにし、学説の議論をフォローすることで、労働協約法制におけるドイツの基本的考え方を明らかにした。これをもとに、次年度以降、ドイツの労働協約法制をめぐる分析を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の憲法28条の勤労者概念について制定過程を整理した点で予定通りである。ドイツの議論については、協約自治単一法の合憲判決が出たためそれを整理することが中心となったので、ドイツにおける規範的効力そのものの議論の整理は予定よりも時間が限られた。もっとも、この判決は規範的効力についての理解に密接に関連しているので、本研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目はドイツの議論の整理が中心となるので、ドイツ人の専門家と直接意見交換するなどして、本研究を積極的に進めていきたい。現時点で、研究計画の変更はない。
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Causes of Carryover |
初年度は予定通り、物品費および旅費として執行したが、わずかに少額の残額が生じたもので、ほぼ全額執行できたものと考えている。この残額については来年度の物品費の一部として執行を予定している。
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