2018 Fiscal Year Research-status Report
憲法28条の権利主体と保護範囲の分析を通じた労働協約法理の再検討
Project/Area Number |
17K03403
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
桑村 裕美子 東北大学, 法学研究科, 准教授 (70376391)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 団結権 / 労働協約制度 / 協約単一原則 / 労働者類似の者 / 労働協約の規範的効力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の労働協約法理を憲法の観点から捉え直すもので、研究手法はドイツとの比較法的アプローチを用いている。 2018年度は、ドイツで労働協約の適用関係についての議論が活発化したことから、第1に、この点の学説や立法動向を整理した。 ドイツでは、伝統的に「1つの事業所に適用される労働協約は1つ」というルール(協約単一原則)があり、これを明記した法規定によると、組合員が最も多い労働組合の労働協約のみが適用される。しかし、上記法規定は少数組合の利益を十分考慮する措置を欠く点で(一部)違憲との判決が2017年に出され 、2018年末までに立法者に改正義務が課されていた。この判決を契機に、ドイツでは、憲法上の労働協約締結権の主体や権利保障の範囲について議論が進んだ。もっとも、最終的に2018年12月末に成立した法改正は、新たな規制を一切導入せず,上記判決の趣旨を明記するだけの内容で、現在、上記2017年判決との両立性が問題となっている。この一連の議論を整理することで,団結権保障の具体化において憲法上立法裁量がどの程度認められるかについて、ドイツの考え方を知ることができた。 第2に,非雇用型就業者と労働協約制度の関係性について、ドイツが協約締結権を労働者以外に「労働者類似の者」の団体に認めていることに注目し、その制度設計と憲法との関係性を分析した。その結果、上記制度設計は、労働者類似の者にも団結権が保障されるという理解を前提としていることが分かった。ただし,一部の職業(代理商)は、明文で規範的効力のある協約締結権が否定されており,憲法上の団結権保障との関係で違憲との指摘もあった。この点に関する学説の議論から,ドイツでは,労働協約制度の適用範囲についての理解が憲法上の権利主体の範囲をめぐる理解と密接に関連していることが読み取れ,その議論の具体的内容は日本でも参考になる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は憲法と労働協約制度の関係性に注目するものであるが、これまでの2年間の研究によって、この点についてのドイツの基本的考え方を整理・分析することができている。また、憲法の団結権保障の理解をめぐっては複雑な議論が展開されているため、正確な理解が不可欠となるが、2年目は現地調査を行い、専門家との議論の中で正確な情報を得ることができた。その際に、見落としている視点についても示唆を得ることができた。 もっとも、日本で現在大きな問題となっている非雇用就業者の法的地位については、ドイツでも議論が現在蓄積されている過程であり、踏み込んだ検討はいまだ十分にできていない。また、本研究課題で扱う各論的論点についても情報収集が不十分な箇所があり、今後検討を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目も引き続き、関連論点について情報収集を進める。これまでの研究では、ドイツで理論的に検討が進んでいる論点を先に取り上げたこともあり、いまだ十分に情報収集できていない論点があるので、今後取り組む。そして、2019年度は本研究の最終年度であるため、これまでの情報収集を基礎として分析を行い、その当否についてドイツの専門家と積極的に議論することを考えている。これまで十分に取り上げられていない個別論点については、日独比較を行うシンポジウムなどの機会を利用し、ドイツの専門家にこちらから問題提起をし、議論をする中で必要な視点を得るという方法が有益だと考えている。
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Causes of Carryover |
研究課題についての文献購入代金が当初の予定より低額で済んだため、若干の未使用額が生じた。主要論点についての最新文献が次々と発刊されているので、未使用額は最終年度で使用する予定である。
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