2017 Fiscal Year Research-status Report
職場の健康・安全についての労働契約上の予防義務の再構成
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17K03409
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野田 進 九州大学, 法学研究院, 教授 (90144419)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 労働者の健康・安全 / 労働契約 / 予防義務 / 衛生安全委員会 / 社会経済委員会 / マクロン・オルドナンス / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、職場の健康・安全の予防義務について、EU法およびフランス法の法理と実務の研究に基づき、そこで発展・形成された労働契約法としての予防義務の構成を、日本の法理においては労安衛法の分析から解釈論・立法論として構築するものである。そして、初年度である平成29年度においては、EU諸国、特にフランスにおいてなされてきた法理及び法制の発展を検討し分析することを主眼として、その課題に取り組んできたところである。 フランスでは、判例および法制の発展により形成された、労働契約上の健康・安全の予防義務の位置づけが明確である。このために、第1に、かかる「予防義務」についての、主として判例形成について、歴史をさかのぼった分析を急いでいる。しかし、第2に、予防義務を具体的に裏付け、保障するための制度上の枠組みとしては、1982年に発足した、企業レベルの衛生安全労働条件委員会(CHSCT)の役割が顕著であり、フランスではこの制度の役割が特徴的であることから、同制度の法制上および現実の機能に注目するのが調査手法として有益であると考えられる。 ところが、昨年度にいたって、2017年に発足したマクロン政権は、同年9月22日の「マクロン・オルドナンス」において、労働法の大幅な改革を成し遂げ、その一環として、この衛生安全労働条件委員会を、他の従業員代表制度である、企業委員会、従業員代表委員の制度と統合して、新たに「社会経済委員会」という新たな制度を発足させた。このため、本研究としても、昨年度の研究課題を若干シフトして、このマクロン・オルドナンスとの関係で、労働契約法の改革およびこの「社会経済委員会」の設立に関する調査に集中することにした。これらの調査の研究成果は、大学の紀要および労働法専門誌に着実に公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はフランスの法制の調査研究をメインの課題としていたところ、同法制は、2017年9月22日のマクロン・オルドナンスにより大きく改革され、労働協約および労働契約の制度の改革、さらには衛生安全労働条件委員会の社会経済委員会への統合といった大改革がなされた。 そこで、本研究も、研究目的や方向性は変更する必要はないとしても、調査対象について若干のシフトが必要とされるようになり、マクロン改革の概要についてまずは全体像を明らかにし、それが及ぼす労働契約上の健康・安全の予防義務についての波及効を確認する必要が生じた。 マクロン・オルドナンスの改革は極めて大規模であるが、現在までほぼ着実にその概要と法政上の意義を明らかにしてきており、現在は本研究の直接の対象である「社会経済委員会」の制度について、研究を進めているところである。 以上のように、当初予測できなかった、マクロン・オルドナンスによる労働法制の改革により、若干の研究対象の変更を余儀なくされたものの、研究そのものはおおむね順調に進展しており、平成30年度の研究につなげていくことができたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度も、EU・フランスにおける調査の補足を行うことになるが、それとともに、わが国での法理の構築に向けた調査と考察を行う。 すなわち、第1に、フランスの法制改革については、それ自体の研究を推進することとし、労働法改革の全体像と、日本に及ぼす比較法的意義を研究成果としてまとめることを予定している。 第2に、職場の衛生・安全についての義務は、わが国では、一方で労働契約論と離反した労安衛法上の「責務」と、他方で、損害賠償の根拠法理としての安全配慮義務との狭間にあって、空白状態にある。これを、労働契約上の権利義務として、危険予防や危険回避の法理が労働契約上の義務として理論化を試みる。研究代表者は、これまで労働契約論の法理の発展を研究テーマとしてきたところであるが、その延長上で、労働契約が健康・安全についての義務を取り込む契機を、EUおよびフランスで理論を基に考察する。これらについても、逐次、研究成果を公刊し、社会的にも問題提起を試みる。
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Research Products
(6 results)