2018 Fiscal Year Research-status Report
個人請負型就業者に関する保護規制の現代的あり方:比較法的検討を通じて
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17K03417
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大木 正俊 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (00434225)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 社会法学 / 労働法 / イタリア / 個人請負型就労 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目は、初年度の成果をうけて、2017年5月にイタリアで成立した個人請負型就労者を対象とした立法の分析に多くのエネルギーを割いた。今年度の分析からは、同立法は、報酬支払いの確保、個人請負型就労者の労働市場における支援、母性や傷病時などの保護、職務発明に関する規定などの方が実務に及ぼす影響が大きい可能性があることがわかった。 また、今年度は個人請負型就労者の労働者性に関してもイタリアで重要な進展があったため、その分析にも時間を割いた。具体的には、フードデリバリー型のプラットフォームワーカーの労働者性に関する裁判において、従前の裁判例と同様の見地からワーカーの労働者性を否定した第一審を覆し、一部の規制の適用を認めた控訴院判決が2019年初頭に出された。判決後まだ間もないことから、イタリアでも同判決への評価は定まっていないため、今後の分析が必要となる。 理論研究については、労働法の基礎理論に関する研究をおこなっており、その成果の一部として今年度は労働契約法の歴史に関する論文、民法と労働法の接点に関する論文等を公刊した。 今後は、当初の計画通り、初年度および今年度に収集した資料の分析のほか、追加的な資料収集とそれらの分析をおこないつつ理論研究を進めていくことになるが、同時に立法・判例研究も行なう必要がある。 というのも、当初計画が策定された後の2017年および2019年に相次いで重要な立法および裁判例がイタリアから出たことから、これらの立法および裁判例にも注目せざるを得ないからである。 最終年度は海外調査をおこない、これまでの分析をもとにイタリアの研究者などにヒアリング調査を実施して、イタリア法の正確な理解に努める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目は、初年度の成果をうけて、2017年5月にイタリアで成立した個人請負型就労者を対象とした立法の分析に多くのエネルギーを割いた。前年の分析ではこの立法の特徴を請負代金の確保や優越的地位の濫用規制など、経済法的な規制を個人請負型就労者にも適用したことにあるとしたが、それらは基本的には民事的な規制のみとなっており、十分な実効性を確保できるかには疑問の余地がある。今年度の分析からは、同立法は、報酬支払いの確保、個人請負型就労者の労働市場における支援、母性や傷病時などの保護、職務発明に関する規定などの方が実務に及ぼす影響が大きい可能性があることがわかった。 これらの仮説がどの程度成り立つかについては、現地でのインタビューなどをおこなって確かめる必要があるが、代表者の家庭の理由などにより今年度は海外調査を行えなかったため、最終年度に海外調査を実行することとする。 また、今年度は個人請負型就労者の労働者性に関してもイタリアで重要な進展があったため、その分析にも時間を割いた。具体的には、フードデリバリー型のプラットフォームワーカーの労働者性に関する裁判において、従前の裁判例と同様の見地からワーカーの労働者性を否定した第一審を覆し、一部の規制の適用を認めた控訴院判決が2019年初頭に出された。この判決の特徴は、2015年6月15日委任立法81号2条を用いつつ、解雇に関する保護は認めないが、労働時間などへの適用を認めた点にある。その理由として、ワーカーの外部組織的要素が考慮されており、この点は類似事例における判決と大きく異なっている。判決後まだ間もないことから、イタリアでも同判決への評価は定まっていないため、今後は同判決をどのように捉えるかが重要なポイントとなるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の計画通り、初年度および今年度に収集した資料の分析のほか、追加的な資料収集とそれらの分析をおこないつつ、理論研究を進めていくことになるが、当初の計画よりも理論研究の比重をやや下げる必要があると考えられる。 というのも、当初計画が策定された後の2017年および2019年に相次いで重要な立法および裁判例がイタリアから出たことから、これらの立法および裁判例にも注目せざるを得ないからである。したがって、最終年度は、まず、2017年立法に関する論文を執筆することで同立法への分析を深めつつ、2019年判決に関するイタリアの学界の反応をあとづけて同判決の評価を確定する作業をおこなう。 もっとも、理論研究を行わないわけではなく、立法・判決の分析が同時に理論研究も含むことため、これらの分析から得られるミクロの理論をしっかりと分析をすることに加えて、当初の予定通り労働法の基礎理論の分析を進めつつも、それに並行して経済法の基礎理論の分析も進めることとする。分析にあたっては、経済法研究者の助力を得る体制はすでにあるため、困難にも対処しやすいと考えられる。 今年度も初年度と同じく、個人的な事情により海外調査を行うことができなかったが、最終年度は海外調査をおこない、これまでの分析をもとにイタリアの研究者などにヒアリング調査を実施して、イタリア法の正確な理解に努める。
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Causes of Carryover |
個人的な事情により予定していた海外調査を行えなかったことが次年度使用学が生じた理由である。 最終年度は海外調査を実施できる体制が整っているため、使用計画に問題はないと考える。
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