2019 Fiscal Year Research-status Report
A Comparative Study on the Method for Regulating the Authorities' Discretion for the Calculation of Administrative Fines
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17K03418
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
伊永 大輔 広島修道大学, 法学部, 教授 (10610537)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 課徴金 / 独占禁止法 / 競争法 / 制裁金 |
Outline of Annual Research Achievements |
独占禁止法規制の実効性を確保する上で、課徴金制度の役割は非常に大きなものとなっている。しかし、非裁量的な法運用が前提となった制度であるがゆえ、経済実態の急激な変化に伴い、違反行為の抑止効果が発揮できない場面が増えてきた。このため、課徴金算定に当たり広範な行政裁量を導入する動きがあるが、法制上の限界や司法による裁量統制手法について研究上の蓄積が圧倒的に不足している。本研究は、このような学術研究の欠落に対する一つの回答について、主にEU競争法との比較法的視座から模索することを目的とするものである。 本研究目的を達成するために発表した研究成果の中でも、本研究の成果を最も端的に表すのは、単著『課徴金制度 ー独占禁止法の改正・判審決からみる法規範と実務の課題』(第一法規、2020年)である。本書は、科研費研究の成果であることを明示してこれまでの研究成果を1冊にまとめた単著であり、課徴金制度研究の集大成として2020年2月に発刊されたものである。 また、2019年6月に独占禁止法改正法が成立し、本研究の対象である課徴金制度が大幅に改正されることとなった(全面施行は2020年末頃)。改正内容には、これまでの本研究の成果が反映されている一方、新たな制度の導入といった大胆な改正内容もある。上記単著は改正の経緯や改正内容を踏まえたものとなっているが、脱稿時期や全体とのバランスとの関係で詳細な分析はできなかった。 この点において、単著「課徴金制度の改正 ー令和元年改正の評価と課題 」法律時報 92巻3号53 頁以下(2020年)なども、科学研究費補助金による本研究の重要な成果の一つといえる。研究最終年度は、独占禁止法改正にかかる下位法令(4月2日に規則案等が公表)を踏まえた分析と研究成果の公表を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究最終年度に当たり、研究成果を書籍にまとめるべく、これまでの研究で得られた研究成果を発表して議論を重ねるなど、新たな事例の検討や必要な外国法の調査だけでなく、理論の収斂と法解釈の個別検証を進めてきた。 この点、課徴金算定実務は外部に公開されないことから、大学に所属する研究者だけでなく、公正取引委員会の担当職員や独占禁止法運用実務に精通する弁護士との議論も重視する必要がある。そのため、競争法実務研究会(東京・大阪)といった弁護士・企業法務担当者・公正取引委員会職員で構成する実務的な内容の研究会にも研究者として例外的に参加・報告し、課徴金に関する実務的な課題について情報交換してきた。 その結果、前記「研究実績の概要」欄のとおり、単著『課徴金制度』を2020年2月に出版することができた。本書は、課徴金の性格を改正の歴史から紐解く第1章に始まり、課徴金算定率の加減算規定の合理性の検討(第2章)、課徴金減免制度の意義と課題(第3章)、課徴金制度の最大の争点となっている「当該商品・役務の売上額」の解釈問題(第4章)を検討した後、私的独占や不公正な取引方法における課徴金制度(第5章)も検討しつつ、最後に令和元年改正による新しい課徴金制度の法的評価と残された課題(第6章)について取り上げたものである。課徴金制度全体を網羅する単著に研究成果をまとめることができ、本年度の研究はおおむね順調に進展したと評価できる。 他方、令和元年改正には新たな制度の導入といった大胆な改正内容もあり、今後制定される下位法令を含めた課徴金制度の全体像を踏まえた検証研究は行うことができなかった。下位法令である規則案及びガイドライン案は2020年4月に公表されたためである。この点で、これまでの研究計画に修正を加える必要が生じ、研究期間の延長を余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、同年中に施行される改正独占禁止法の詳細な研究を行い、その成果の公表に向けて取り組む計画である。具体的には、公正取引委員会の法改正担当職員及び独占禁止法運用実務に精通する弁護士との議論を経て、規則及びガイドラインを踏まえつつ、改正内容の検証や課題の洗い出しと法理論の修正を行うこととしたい。本研究は学術のみならず、実務的にも非常に関心の高いものであることを意識した成果公表の在り方も考えながら研究に取り組む所存である。 また、既存の課徴金制度についても、最新判決等があれば、これを適宜分析・評釈することが肝要である。そうした研究成果を発表しながら多くの研究者・実務家から意見をもらい、国内での議論を喚起するとともに、これらの意見をその後の研究に活かしていくことが研究の軌道修正にも効果的であり、また、相互発展を目指す学術研究として有効であると考えている。そのため、研究期間中に学術誌に発表するなどしてそこで提示された問題意識を発展・解消していくこととしている。
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Causes of Carryover |
本研究の成果を書籍にまとめるに際し、広島修道大学から出版助成を獲得することができたことから、研究成果の公表にかかる費用として計上していた研究費を節約できたことが主たる要因である。また、2019年6月に独占禁止法改正法が成立し、本研究の対象である課徴金制度が大幅に改正されることとなったことに伴い、比較法研究のために欧米の法制度調査を行う必要性の再検証が必要となり、2019年度の海外調査を見送った経緯がある。 令和元年独占禁止法改正による課徴金制度を詳細に研究するには、今後制定される下位法令を含めた課徴金制度の全体像を踏まえた検証研究を行う必要がある。下位法令は2020年4月に案が公表されており、2020年度に繰り越した研究費は、改正法に関する書籍・資料費やヒアリング等の旅費に使用する予定である。また、必要に応じて新たな課題・疑問に対する海外調査をも行う可能性がある。
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Research Products
(11 results)