2020 Fiscal Year Research-status Report
A Comparative Study on the Method for Regulating the Authorities' Discretion for the Calculation of Administrative Fines
Project/Area Number |
17K03418
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊永 大輔 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (10610537)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 課徴金制度 / 制裁金 / 調査協力減算制度 / 独占禁止法改正 / EU競争法 |
Outline of Annual Research Achievements |
課徴金制度の改正を内容とする令和元年独占禁止法改正法が2020年12月に全面施行された。本改正には、これまでの本研究の成果が相当程度反映され、指摘していた規定の改廃による合理化が図られた。一方で、調査協力減算制度という新たな制度が導入されるなど、課徴金制度に重要な変更が加わることになった。調査協力減算制度は、公正取引委員会と違反事業者との協議を経て合意した調査協力を行うことにより、追加的な課徴金の減額が得られるというものであり、これまで非裁量性を謳っていた課徴金制度の法的性格に一石投じるものである。 こうした改正法および下位法令・ガイドラインを点検し、単著『課徴金制度』(第一法規、2020年3月)では十分に取り扱うことのできなかった点に詳細な検討を加えたのが、単著「課徴金減免制度における調査協力減算制度の意義と課題 」公正取引839号(2020年9月)である。また、新たな制度を踏まえた課徴金の法的性格への影響や今後の運用上の課題等にも触れながら制度全体の総点検を行ったものとして、単著「課徴金制度全体をめぐる考え方」ジュリスト1550号(2020年10月)が公刊されている。いずれも、本研究目的を達成するために発表した成果の中でも、科学研究費補助金による本研究の成果を最も端的に表すものであり、本研究の重要な成果の一つといえる。 さらに、本研究のテーマとの関連性は直接的ではないが、単著「優越的地位濫用規制の行為類型論」日本経済法学会年報 41号(2020年9月)は、課徴金制度が導入されて要件解釈が精緻化した優越的地位濫用の事例を整理・評価して合理的な解釈を検討したものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課徴金制度の改正を内容とする令和元年独占禁止法改正の全面施行とともに、新たに導入される調査協力減算制度に関する下位法令やガイドラインが整備されたこと受け、学界のみならず産業界や法曹界でも課徴金制度に関する関心が高まっている。本年度は、各種法律雑誌も軒並み課徴金制度に関する特集が組まれるなどしたが、学会でもエンフォースメント(法執行)を年次研究大会のテーマに据えるなど、学術・実務の両面で課徴金制度が注目された。 こうした法律雑誌の特集で本研究の成果を公表するなど、基本的な法構造や法解釈の道筋を付ける論考を公刊し、一定の学術貢献を果たすことができた。一方で、コロナ禍により公正取引委員会の担当職員や独占禁止法運用実務に精通する弁護士との実務的な課題についての情報交換に限界が生じ、研究活動の発信や課題抽出にかなりの支障が生じた。課徴金算定実務は外部に公開されないことから、大学に所属する研究者だけでなく、公正取引委員会職員・弁護士・企業法務担当者の問題認識や実務課題への理解も、法解釈に当たって重要な要素となると考えるためである。 新たな事例の検討や必要な外国法の調査だけでなく、これらの法運用実務への理解と規定解釈の理論化を統合させる試みについては、個別の検討材料をつぶさに収集しつつ、次年度の研究へと繋げていくこととしたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、改正独占禁止法の本格運用が反映された事例が登場するはずである。こうした実例を通して、実体法上の問題だけでなく、手続法上の問題も明らかになる可能性がある。運用事例を時系列を踏まえて詳細に検討しつつ、内容の検証や課題の洗い出しと法理論の修正を行うこととしたい。 また、事例の検討や意見交換から得た知見や発想は、理論化した上で研究成果として公表できるよう取り組む計画である。そうした研究成果を発表しながら多くの研究者・実務家から意見をもらい、国内での議論を喚起するとともに、これらの意見をその後の研究に活かしていくことが、客観的な研究内容を施行するための羅針盤として効果的であり、また、相互発展を目指す学術研究として有効であると考えている。そのため、研究期間中に学術誌に発表するなどしてそこで提示された問題意識を発展・解消していくこととしている。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、国内外の出張が一切できなくなってしまったため、出張旅費が全くかからなかったことが、次年度使用額が生じた最大の理由である。他方、研究活動に関しては、国内国外を問わずオンラインで情報交換をするなど、思った以上に支障が生じなかった。また、書籍の発注も遅れがちとなったため、明らかに必要となるものを厳選して不用意な支出を抑えたことも要因の一つだが、これは科学研究費補助金の使い方としては正しいと考えている。 次年度においても、コロナ禍が続くことにより、移動が大幅に制限を受けることが予想される。したがって、次年度も出張旅費に用いることは難しいと考えられるため、PC等の必要な機器の更新や外国専門誌のオンラインジャーナルの購入などに充てることを計画している。また、成果の公表の一つとして、ホームページを作成して成果物を公表したり,意見交換に利用したりすることも検討したい。
|