2017 Fiscal Year Research-status Report
賃金格差の正当性に関する比較法研究-英・米・加の賃金差別禁止法理の分析
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17K03419
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
所 浩代 福岡大学, 法学部, 准教授 (40580006)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 賃金格差 / 性差別 / 有期労働契約 / パートタイマー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カナダ、アメリカ、イギリスの3か国の賃金平等法に焦点を当てて、賃金格差の正当性に関する理論を比較法研究するものである。本研究の最終目標は、日本の賃金差別訴訟(性差別・雇用形態間差別)における使用者側の抗弁の具体的内容を提案することである。日本では、「同一労働同一賃金」の理念が再注目されているが、この理念を司法救済の場で公平に機能させるためには、①比較対象者の選定手法の確定に加えて、②賃金格差の正当性を判別する指標の理論化が必要である。これまでの先行研究は①に重点を置くものが多く、②の点の理論化が十分ではない。本研究は、②の点を補強するものである。 当初の計画では、本年度にカナダ法の研究を終える予定であったが、翌年度に本務校の在外研究員として、カナダ・トロント大学に留学することになったため(派遣期間1年間)、本年度は、日本法の枠組み・裁判例の状況・行政による施策の3点を整理することにし、平成30・31年度でカナダ・アメリカ・イギリスの状況を調査し、4か国の比較法研究をまとめることにした。日本法の研究に1年費やすことにしたのは、現政権が重点政策の一つに「同一労働同一賃金原則」の推進を掲げ、内閣と厚労省がそれぞれ有識者会議を参集し、本原則に基づく法制度改革と施策の推進に力をいれたからである。また、労働契約法20条(有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件における不合理な格差の禁止)に関する訴訟が相次ぎ、重要な下級審判決が複数だされた。本研究では、このような日本の状況を整理し分析することが重要であったため、当初の計画を修正し、現政権働き方改革の内容と課題の考察、裁判例の整理・分析、法制度改革案の適否などの検討に時間を割いた。平成30年6月に、最高裁が労契法20条に関する重要な判断を行う予定であるため、日本法の分析はその内容をまって、次年度以降に取りまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
カナダ留学は本研究の採択以降の平成29年6月に決定したものである。カナダ留学の内定を受けて、本研究の内容を充実させるため、研究計画の見直しを行った。当初は、1年目に、1週間ほどの短期出張を行い、集中的にカナダの研究者へのインタビューを行う予定であったが、留学が決定したため、研究交流は平成30年度に現地で時間をかけて行うことにした。そのため、本年度は、日本法の研究に時間を多く使うことにし、戦後から現在までの賃金格差是正政策の沿革、裁判例の動向、国連における同一労働同一賃金原則の位置づけなどの検討を行った。平成30年度は、1年間教育活動を休止し、研究活動に専念するため、研究の遅れは、その1年間で取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、本年度に実施した日本法研究の知見を踏まえて、カナダ法とアメリカ法の比較法研究を行う。当初の計画では、平成29年度にカナダ法、平成30年度にイギリス法、平成31年度にアメリカ法の研究を行う予定であったが、先に述べたように、平成30年8月からカナダに研究拠点を移すことになったため、各年度の研究対象国の順番を変更し、平成30年度に、カナダ法とアメリカ法の研究を行うことにした。 平成30年度は、日本を出国する前にカナダの雇用差別禁止法等の枠組みを整理し、7月に東京で同分野の研究者が集まる研究会で中間報告を行う予定である。同年8月から翌年3月までの間は、トロント大学法学部に籍を置き、カナダ各州およびアメリカ主要都市での関係者(法学研究者・弁護士・組合関係者・行政機関)への聞き取り調査・文献調査を行う。また、カナダ・アメリカの研究者を交えてワークショップ等で中間報告を行う。 平成31年度は、イギリス法の調査を開始し、研究期間の後半にて、3各国と日本を比較した報告書をまとめる。
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Causes of Carryover |
平成29年度にカナダ法に関する文献・資料収集とカナダ法研究者へのインタビュー調査を行う予定であったが、平成30年8月にカナダに研究の拠点を移すため、効率を考慮し、カナダ法の文献・資料収集とカナダ法研究者へのインタビューは、カナダの現地に到着してから行うことにした。そのため、本年度に予定していた文献収集は日本から取り寄せ可能な書籍のみに留めた。カナダ法の文献収集は、予定されているイギリス法・アメリカ法の文献収集と合わせて、2018年8月以降に本格的に行う。 旅費の支出(インタビュー調査)については、平成30年8月以降にトロントを拠点として行う予定である。なお、2018年5月末に、トロント大学の労働法研究者を訪問し、トロントを拠点としたインタビュー調査の訪問先についてアドバイスをもらう。カナダは州によって賃金格差是正施策の内容が異なるため、オンタリオ州(University of Toronto)、ケベック州(McGill University)、ブリティッシュコロンビア州(The University of British Columbia)の各大学所属の研究者に協力を依頼し、カナダ各州の最新動向を調査する。
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