2017 Fiscal Year Research-status Report
公判前整理手続・公判手続を通じた証拠法規制のあり方
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17K03424
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成瀬 剛 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (90466730)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 証拠法 / 公判前整理手続 / 公判手続 / 証拠の関連性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度前半は,比較法研究に入る前提作業として,公判前整理手続の現状・問題点を明らかにするとともに,公判前整理手続後の公判手続における証拠制限の理論的根拠・範囲を考察した。 前者については,公判前整理手続における争点・証拠の整理のあり方を問題視した判例・裁判例(例えば,最決平成26年3月10日刑集68巻3号87頁に付された横田裁判官の補足意見や最決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁に付された小貫裁判官の補足意見)及び公判前整理手続に関する文献を網羅的に検討するとともに,法曹三者にインタビューを行うことにより,現在の公判前整理手続の問題点を具体的に明らかにした。 後者については,刑訴法316条の32第1項による証拠制限及び主張明示義務違反に基づく証拠制限を取り上げ,平成16年刑訴法改正の立案段階における議論を出発点とした上で,その後の判例・裁判例・学説を考察し,公判手続における証拠制限の理論的根拠とその具体的範囲を検討した。 本年度後半は,前半の日本法の考察を踏まえて,英米法諸国の中でも当事者主義が最も強調され,争点・証拠の整理も基本的に当事者の自主性に委ねられているアメリカを考察した。 アメリカには,日本の公判前整理手続のような裁判所が主宰する争点・証拠の整理手続は存在せず,原則として当事者のみで主張提示及び証拠開示を行い,争いが発生した場合のみ,裁判所に申し立てて判断を求める仕組みになっている(一般に、公判前申立て〔pretrial motions〕と呼ばれる)。そこで,検察官・刑事弁護人向けに書かれた主張提示・証拠開示及び公判前申立てに関する体系書の検討を通じて,当事者のみによる争点・証拠の整理のあり方を具体的に把握するとともに,同国の証拠法理論とりわけ関連性概念がその争点・証拠の整理において果たしている役割を代表的な証拠法体系書の分析を通じて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,以下の2つに分けられる。第1に,近時の判例・裁判例によってその運用が問題視されている公判前整理手続について,英米法諸国及び大陸法国における争点及び証拠の整理に対する規律・運用との比較法的考察を行い,証拠の関連性を基準とした争点及び証拠の整理のあり方を具体的に提示すること,第2に,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,公判前整理手続における証拠法規制の役割を明らかにすることにより,手続の進行に応じた動的な証拠法理論を発展させることである。 今年度の研究成果は,これら2つの目的に対して,以下のような意味を持つ。 第1の目的との関係では,まず,日本の判例・文献の検討及び法曹三者に対するインタビューを通じて,現在の公判前整理手続の問題点を具体的に明らかにした。また,日本と異なり,争点・証拠の整理が基本的に当事者の自主性に委ねられているアメリカにおいて,検察官・弁護人が行う具体的な訴訟活動を把握するとともに,その際に証拠法(とりわけ関連性概念)が果たしている役割を考察した。なお,アメリカ法の理解は、他の英米法諸国を検討するための基本枠組を設定する意義も有する。 第2の目的との関係では,公判前整理手続後の公判手続における証拠制限の理論的根拠・範囲を探るため,最決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁において問題となった被告人によるアリバイ主張を例として,日本とアメリカの証拠規律の相違を手続の進行を踏まえつつ明らかにするとともに,その相違がもたらされる理論的・制度的根拠について考察した。この比較検討を通じて,公判前整理手続終了後の主張制限に関する明文規定を持たず,証拠制限についてのみ明文規定(316条の32)を有する日本法の特徴を明確化した。 以上の通り,今年度の研究成果は2つの目的に対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度前半は,裁判所主宰で争点・証拠の整理を行うイギリス・カナダを検討し,公判準備段階における証拠法の役割を探る。イギリスでは,充実した陪審裁判を実現するため,裁判所主宰の答弁・事件管理手続が必要的に行われており,カナダにおいても,裁判所主宰の公判前会議(カナダ刑法625.1条)が行われている。そこで,両国の代表的な体系書・実務書を用いて,これらの手続の内容を把握するとともに,両手続における争点・証拠の整理が関連性概念及び公判における証拠制限といかなる関係に立つのかについて検討する。 平成30年度後半は,当事者中心の争点・証拠整理(アメリカ型)から裁判所主宰の争点・証拠整理(イギリス・カナダ型)に移行しつつあるオーストラリアの現状を把握するとともに,ドイツの分析によって英米法圏の議論を相対化させ,より深く理解する。オーストラリアについては,上記のような実務上の変化が生じた理由を,公判審理の充実及び証拠法規制の両面から,代表的な体系書を用いて検討する。他方,ドイツでは,英米法諸国のような公判前準備は行われないが,公判審理の冒頭に行われる被告人尋問(ドイツ刑訴法243条5項)が争点整理の役割を果たし,検察官及び弁護人による証拠調べ請求に対する裁判所の却下権限(同法244条3項)が証拠整理の機能を果たしている。そこで,代表的な注釈書により,両手続について検討する。 平成31年度前半は,前2年間に積み残した課題があれば,まずそれを補足的に検討した上で,英米法諸国の共通点・相違点をまとめ,その成果を日本の問題状況に接合させて, さらに考察を深める。 平成31年度後半は,以上の全考察を踏まえて,①公判前整理手続後の公判手続において生じうる証拠制限の理論的根拠及びその具体的内容,及び,②関連性概念を主張・証拠の選別基準として用いた争点・証拠の整理のあり方を提示する。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する予定の研究費(約37万円)が生じたのは,以下の2つの理由による。第1に,今年度実施予定であったアメリカ出張を次年度に延期した。当事者が主体となって争点・証拠の整理を行うアメリカの特徴を深く理解するには,裁判所主宰で争点・証拠の整理を行うイギリス・カナダの立場も事前に把握しておく必要があると判断したためである。第2に,次年度に公刊予定の外国文献の購入費用に充てるため,あえて物品費の予算執行を抑えた面もある。 次年度は新たに請求する分と合わせて,約137万円の研究費を使用できることとなる。その具体的な使用計画は,以下の通りである。まず,イギリス・カナダ・オーストラリア・ドイツにおける争点・証拠の整理の在り方を検討するため,各国の刑訴法・証拠法関連図書を15万円ずつ購入する(15万円×4カ国=60万円)。他方,日本においても公判前整理手続や証拠法に関する議論が急速に進展しているので,その最新動向を把握するため,日本の図書も15万円分購入する。また,各国の証拠規律を検討するには図書のみならず判例や論文も大量に検討する必要があるので,データベース資料の印刷代及び図書室における文献複写代として約7万円使用する。さらに,アメリカ・イギリスへの出張旅費として55万円を充てる。この出張では,両国における争点・証拠の整理のあり方について現地研究者・法曹関係者と意見交換をする予定である。
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