2018 Fiscal Year Research-status Report
公判前整理手続・公判手続を通じた証拠法規制のあり方
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17K03424
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成瀬 剛 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (90466730)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 証拠法 / 公判前整理手続 / 公判手続 / 証拠の関連性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度前半は,アメリカと異なり,裁判所主宰で争点・証拠の整理を行うイギリス及びカナダの現状を検討し,公判準備段階における証拠法の役割を探った。 イギリスでは,充実した陪審裁判を実現するため,裁判所主宰の答弁・事件管理手続が必要的に行われており,そこでは,当事者の主張・立証を踏まえた争点・証拠の整理や審理計画の策定が行われている。そこで,実務注釈書を用いてこの手続の内容を把握するとともに,同手続における争点・証拠の整理がイギリスの関連性概念及び公判における証拠制限といかなる関係に立つのかについて証拠法体系書の分析を通じて明らかにした。また,カナダにおいても,裁判所主宰の公判前会議が行われているので,刑事訴訟法・証拠法の体系書を用いて,イギリスにおける争点・証拠の整理のあり方との比較を行った。 本年度後半は,当事者中心の争点・証拠整理(アメリカ型)から裁判所主宰の争点・証拠整理(イギリス・カナダ型)に移行しつつあるオーストラリア法の現状を把握するとともに,ドイツ法の分析によって英米法圏の議論を相対化させ,より深く理解することを目指した。 オーストラリアでは,従来,当事者間で非公式な争点・証拠の整理が行われてきたが,近時,複雑な専門証拠が問題となる事案などで裁判所主宰の争点・証拠の整理も行われるようになってきている。そこで,このような実務上の変化が生じた理由を,公判審理の充実及び証拠法規制の両面から,刑事訴訟法・証拠法の体系書を用いて明らかにした。 ドイツでは,英米法諸国のような公判前準備は行われず,厳格な証拠規制も存在しないが,公判審理の冒頭に行われる被告人尋問が争点整理の役割を果たし,検察官及び弁護人による証拠調べ請求に対する裁判所の却下権限が証拠整理の機能を果たしている。そこで,これらの手続に関する理論・実務の動向を刑事訴訟法・証拠法の注釈書を通じて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,以下の2つに分けられる。第1に,近時の判例・裁判例によってその運用が問題視されている公判前整理手続について,英米法諸国及び大陸法国における争点及び証拠の整理に対する規律・運用との比較法的考察を行い,証拠の関連性を基準とした争点及び証拠の整理のあり方を具体的に提示すること,第2に,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,公判前整理手続における証拠法規制の役割を明らかにすることにより,手続の進行に応じた動的な証拠法理論を発展させることである。 今年度の研究成果は,これら2つの目的に対して,以下のような意味を持つ。 第1の目的との関係では,まず,前年度検討したアメリカ法の枠組みを踏まえながら,イギリス・カナダ・オーストラリアにおける争点・証拠の整理に対する規律・運用を明らかにすることにより,英米法系4ヵ国のそれぞれの特徴を深く理解することができた。また,大陸法国ドイツにおける公判段階での争点・証拠の整理に対する規律・運用を確認することにより,公判前準備という形で争点・証拠の整理を行う英米法諸国の立場を相対化した。 第2の目的との関係では,最決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁の事案で問題となった弁護側のアリバイ主張に対するイギリス法の規律について,アメリカ法との共通点・相違点を明らかにした。具体的には,イギリスでもアメリカと同様に,犯行時刻に被告人が存在した特定の場所とそれを裏付けるアリバイ証人の氏名・住所・生年月日を公判前に告知する必要があるが,この規律に違反したと判断される場面がアメリカよりも詳細に規定されており,違反の効果も,アメリカのようなアリバイ証言の証拠排除ではなく,被告人の主張に対する不利益推認とされている。 以上の通り,今年度の研究成果は2つの目的に対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度前半は,まず,全2年間にやり残した比較法5カ国の検討を補足的に行った上で,英米法諸国(アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア)の共通点・相違点を明らかにし,その根拠を考察する。次に,日本における公判前整理手続実務の最新動向を把握する目的で,近時公刊された司法研修所編『裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究』(法曹会,2018年11月)を詳細に検討する。その上で,比較法研究の成果を日本における最新の問題状況に接合させて,さらに考察を深める。 最終年度後半は,前2年半の全ての考察を踏まえて,以下の4点を明らかにする。 第1に,公判前整理手続後の公判手続において生じうる証拠制限の理論的根拠及びその具体的内容を明らかにする。第2に,公判手続における証拠制限の可能性を踏まえて,当事者が公判前整理手続において主張すべき内容及び請求すべき証拠の範囲を示す。第3に,関連性概念を主張・証拠の選別基準として用いることにより,充実した公判審理を実現するために必要十分な争点・証拠の整理のあり方を明らかにする。第4に,直接証拠の信用性が問題になる事案(直接証拠型の事案)や複数の間接証拠の推認力を積み上げていく事案(間接証拠型の事案)などいくつかの典型的な事案類型に対して,証拠法の視点を踏まえた争点・証拠の整理の具体的なモデル案を提示する。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する予定の研究費(約54万円)が生じたのは,以下の二つの理由による。第1に,今年度実施予定であったアメリカ・イギリス出張を次年度に延期した。争点・証拠の整理に関するアメリカ・イギリスの実務を深く理解するには,オーストラリア・カナダを含めた英米法系4カ国のそれぞれの特徴を文献調査によって事前に把握しておく必要があると判断したためである。第2に,次年度に公刊予定の外国文献の購入費用に充てるため,あえて物品費の予算執行を抑えた面もある。 次年度は新たに請求する分と合わせて,約124万円の研究費を使用できることとなる。その具体的な使用計画は,以下の通りである。 まず,アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ドイツにおける争点・証拠の整理の在り方を引き続き検討するため,各国の刑訴法・証拠法関連図書を10万円ずつ購入する(10万円×5カ国=50万円)。他方,日本の公判前整理手続に関する議論の最新動向を把握するため,日本の図書も10万円分購入する。また,各国の証拠規律を検討するには図書のみならず判例や論文も大量に検討する必要があるので,データベース資料の印刷代及び図書室における文献複写代として約4万円使用する。さらに,アメリカ・イギリスへの出張旅費として60万円を充てる。この出張では,両国における争点・証拠の整理のあり方について現地研究者・法曹関係者と意見交換をする予定である。
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Research Products
(8 results)