2020 Fiscal Year Research-status Report
再犯防止目的による刑事事件の裁判所外処理に関する実証的研究
Project/Area Number |
17K03425
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
葛野 尋之 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90221928)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 再犯防止 / 検察官 / 訴追裁量 / 起訴猶予 / 少年法 / 刑事弁護 / 宣告猶予 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、少年法改正の動向に注目しつつ、無罪推定、適正手続、責任主義という刑事法原則、当事者主義、公判中心主義という刑事司法の基本構造、被疑者の正当な権利の擁護に徹した刑事弁護という視角から、18・19歳の者についての実体的・手続的な特別措置の提案について批判的検討を加えた。これに関しては、すでに昨年度、共編著『少年法適用年齢引下げ・総批判』(現代人文社、2021年)を上梓し、そのなかで、「少年法適用年齢引下げ提案の批判的検討」2-24頁を分担執筆した。 また、イギリス法において捜査終了時に選択可能な処分が多様化するなかで、被疑者弁護がどのような課題に直面し、どのような変化を経験したかを明らかにするために、「被疑者の黙秘権と弁護人の効果的援助を受ける権利」大出=川﨑=白取=高田古稀祝賀論文集(現代人文社、2020年)234-260頁を発表した。 さらに、起訴猶予の積極活用に代わるべきものとしての宣告猶予について、「宣告猶予」川出敏裕=太田達也編『新刑事政策講座』(成文堂、2021年)を執筆し、提出した。この論文においては、起訴猶予、執行猶予と宣告猶予とを比較検討し、また、宣告猶予の過去の立法提案を検討した結果、被告人の改善更生とその結果としての再犯防止を図るための積極的措置として、起訴後、裁判所が正式に有罪を認定し宣告した後に、刑の量定をすることなく刑の宣告を猶予したうえで、必要に応じて被告人を保護観察に付し、その間、被告人について医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識を活用して性格と生活環境についての社会調査を実施するとともに、保護観察中の行状も観察し、それらを踏まえて最終的な処分を決定すべきとする「刑の宣告猶予」制度を採用すべきことを論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、イギリス調査および台湾調査を実施し、そこから得た知見を踏まえて、比較法的研究を進める予定であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大のために海外調査を実施することができず、これに関する研究の進捗が困難となった。 しかし、近年における検察官の訴追裁量と結びつけた再犯防止措置の拡大・積極化の動向について、理論的研究を進めることができ、また、これに代替すべき措置としての「宣告猶予」について、過去の立法提案の検討、起訴猶予および執行猶予との比較検討、宣告猶予における判決の宣告猶予と刑の宣告猶予との比較検討、宣告猶予と罪責認定・量刑の手続二分、判決前調査制度との関係の理論的解明などを含む研究論文を完成させることができた。これらのことから、研究の目的をかなりの程度達成することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染状況からすると、2019年度、2020年度に続いて、2021年度も、外国調査の実施には大きな困難がともなうことが予想される。それゆえ、本研究の目的を達成するために、起訴猶予に対する刑の宣告猶予の理論的・実践的優位性の論証、被疑者弁護における起訴猶予選択可能性の有する意義など、理論的研究に重点をおきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
2020度に、2回の外国調査を計画していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、いずれも断念せざるをえなかった。これにより、やむをえず、次年度に調査の実施を持ち越すことにしたため
|